ミドルネームの登記

会社の役員や不動産の所有者等となる外国人の氏名にミドルネームが含まれている場合、登記手続上注意すべき点について、整理を試みます。なお、筆者が若手パラリーガル時代に失敗した経験を元に記載しております。

1.ミドルネームはアルファベットで登記できない。

外国人の氏名はアルファベットで登記できません。

例えば、DAVID BECKHAMさんという方が新役員に就任する場合、登記手続のことを考慮して株主総会議事録等に記載する氏名はすべてカタカナに引き直すべきだということにはわりと簡単に気付けるのですが、社内担当者から新任者の氏名が「デイビッド・R・ベッカム」であるという連絡を受けた場合は、意外と気づきにくく、ミドルネームをそのままアルファベットで記載したまま登記しようとしてしまう、ということも意外と起こりえますので、注意が必要です。

なお、仮に、登記手続に必要なすべての書類をアルファベットのミドルネームで作成してしまった場合は、登記委任状に、「デイビッド・R・ベッカム氏の氏名はデイビッド・ロバート・ベッカムとして登記を申請する。」などの一文を追記して申請する対応が実務上行われています。

なお、当然ながら「デイビッド・ロバート・ベッカム」とするのか「デイビッド・アール・ベッカム」とするのかなど、登記すべき氏名の表記を確認する必要が生じます。

(余談ですが、イングランドの偉大な元サッカー選手のBeckhamさんのお名前には、ミドルネームがあり、ミドルネームを含めたお名前の表記は”David Robert Joseph Beckham”だそうです。)

2.各種書類との表記の齟齬に注意

登記ではミドルネームありの表記になっているが、有価証券報告書や許認可届出ではミドルネームなしの表記になっているといった齟齬が発生している会社様もたまにお見かけします。司法書士と登記に関するやりとりをした社内担当者と、許認可等を担当した社内担当者が異なるような場合に発生しがちだと思われます。

こうした場合、何か新たな届出を出す場合に担当者において混乱が生じることもあります。
また、リスクは低いですが、表記の揺れがあることによって人物の同一性が確認できず、官公庁等から公的な証明書類を補完するよう求められるということもありえます。ミドルネームありとなしのどちらが正式な表記なのか、社内で意思統一しておいた方が無難です。なお、該当の方が役員の方なのであれば、一般的には商業登記の表記の方にあわせておいた方が無難だと考えられます。

3.アルファベットで登記できない扱いは改められても良いのでは

かつては、代表取締役のうち最低1名は日本に居住するものではなければならないという規制がありました。この規制の趣旨は、会社に対して訴訟を提起する必要が生じた場合等に、登記記録を確認した者が、その通知を確実に送達できるようにためであるといわれていました。これを踏まえると、日本国内の郵送手続の便宜から、登記手続上、外国人の住所や氏名はカタカナに引き直して登記すべきという扱いは合理性がある(あった)と考えられます。

しかし、平成27年にこの扱いが廃止され、代表取締役の全員が日本に住所を有しない内国株式会社の設立の登記及びその代表取締役の重任若しくは就任の登記について、申請を受理する取扱いとなりました(平成27年3月16日民商第29号通知)。

つまり、現在では、会社の代表者が全員外国に居住していても、登記は可能です。

そうすると、仮に登記記録を確認して、外国にある当該代表者の居住地に通知を発する必要が生じた場合、アルファベットで登記できないと逆に不都合ではないでしょうか。
住所や宛名を登記記録どおりにカタカナで記載した郵便物が外国に確実に到達するとは思えないためです。

以上から、そもそもアルファベットで登記できない扱いは、現行制度を前提にすると改めるべきではないかとも感じます。少なくとも、外国語表記を併記することは認められても良いように思います。

4.まとめ

ミドルネームをカタカナに引き直すべきという点は意外に気付きにくい点でもあり注意が必要です。一方で、そもそもアルファベットで登記できないとされる現行制度を見直すことが議論されても良いのではないかとも考えられます。

司法書士・行政書士 司栗事務所代表。日本企業やグローバル企業からの依頼による会社・法人の設立、株主総会、M&A、グループ内再編、独禁法関連、特定目的会社を利用した資産の流動化、金融商品取引業、投資法人(REIT)等に係る登記手続や官公署への届出事務等に多数関与した経験を有する。
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