外国人の氏名を登記する際の日本語表記の方法等に関する論点

登記記録においては、外国人の氏名は外国語をもって表記することができないため、カタカナ表記等に引き直して登記をすることになります。

日本でいうところの印鑑証明書にあたる署名証明書(サイン証明書)や、本人確認証明書としての運転免許証の写し等には、当然ながら、当該外国人の氏名の日本語表記が記載されていないことが大半です。そこで、各外国人の日本語表記をどのようにすべきかという論点について、いくつか事例とあわせてまとめました。

なお、そもそもですが、アルファベット等による表記での登記ができないことについては、代表取締役のうち1名は日本に居住していなければならないという規制が撤廃されて以降、海外の代表者に充てて送達する必要性も生じている場面も増加していると考えられることから、例えばカタカナ表記と現地語表記を併記することができるようにするなど、早急な改正が望まれるようにも思われます。

総論:氏名の日本語表記がサイン証明書等にない場合の表記の決定方法

まず、登記手続上、外国人役員の氏名表記については、署名証明書や本人確認書類の原文に氏名のカタカナ表記がなくても、それらの訳文に記載された氏名のカタカナ表記で登記することが可能です。

したがって、原則としては、申請人にて任意のカタカナ表記を決定し、当該カタカナ表記を用いて署名証明書や本人確認書類の訳文を作成するとともに、議事録や就任承諾書等の添付書類に記載する氏名は当該カタカナ表記で記載すれば足ります。

カタカナ表記の決定方法ですが、例えば次のようなものが考えられると思います。

  • 既に他で使用されている表記があればそれに従う(実績のある経営者等であれば、ネット検索をすれば、既に何らかの日本語表記でプレスリリース等に表記されている場合があります。また、グループ会社であれば、同グループ会社間で日本語表記を統一することも必要ですので、過去にどのような表記で登記や登録をしていたかを社内で確認します。)
  • google翻訳などのサービスで現地読みを確認する。(google翻訳などのツールで、単語の発音を確認できることがありますので参考にします。)
  • 同性あるいは同名の人がどのようなカタカナ表記になっているか、ネット検索等で確認する。(これもわりと有力な方法です。)

各論

以下は、実務で遭遇した個別の論点です。

(1)外国人が日本で印鑑登録しているが、印鑑証明書上にカタカナ表記がなく、アルファベット表記しかない。

印鑑証明書にカタカナ表記がなかったとしても、議事録や就任承諾書の氏名表記は、適宜のカタカナ表記で記載することで足りる(すなわち、カタカナ表記が記載された別の公的証明書は要求されない)とも考えられます。もっとも、念のため、もし可能であれば(議事録等の作成前に印鑑証明書を確認できるのであれば)、議事録や就任承諾書の氏名は、下記のように、カタカナ表記とアルファベット表記を併記する形で準備できると望ましいです。

例: 下記の者を取締役として選任する。
マイケル・オカモト(MICHAEL OKAMOTO)

(2)韓国籍の役員で、漢字で登記したいが、サイン証明書上に漢字表記がない。

以前当事務所が担当した件において、管轄法務局に確認したところでは、必ずしもサイン証明書等の原文に漢字表記がなくても、当該サイン証明書等の訳文中の漢字表記で登記することも認められ得るとの回答を得ました。が、その照会に先駆けて電話ベースで相談した際には認められないという回答を受けたこともあり、担当者によって見解が異なる可能性があるほか、全国的な取扱かは不明ですので、事案ごとに管轄法務局に確認した方が望ましいと思われます。

仮に、漢字表記のないサイン証明書をもって漢字表記での登記が認められない場合、漢字表記の氏名が記載された本人確認書類の写し(本人が原本に相違ない旨を記載して記名したもの)等を、サイン証明書とあわせて補完的に提出することで、当該本人確認書類の写しの漢字表記に依拠して、登記が認められる余地もあると思われます。もっとも、これも事案ごとに管轄法務局に確認した方が望ましいと思われます。

(3)印鑑証明書上、氏名のカタカナ表記が複数ある

印鑑証明書の「備考」欄に、例えば「氏名のカタカナ表記:ミカイル オカモト 又は マイケル オカモト 又は オカモト・マイケル」と記載された証明書を見たことがあります。

この場合は、当該備考欄に記載された表記のうち任意のものを採用して登記することで、登記できた事例があります。特に上申書等は不要でした。もっとも、管轄法務局によっては別の取扱がなされる可能性もありますので、留意は必要と思われます。

(4)ニックネームで登記できるか

例えば、登記手続の際に添付する本人確認書類上は「Michael Okamoto」となっているが、名刺の表記や対外的な呼称は「Mike Okamoto」としている場合、「Mike Okamoto」(マイク・オカモト)として登記ができるのでしょうか。

事案ごとの法務局の判断にも依るところと思われますが、代表取締役でない取締役の登記において、ニックネーム(上の例でいえばMike)での登記で受理された例はあります(2024.4に東京法務局港出張所管内で当事務所が申請した登記)。

各書類の表記は以下のとおりとしておりました。
議事録:ニックネーム
就任承諾書:ニックネームと身分証明書上の表記を併記
本人確認書類の訳文:原文の表記どおり翻訳
その他:登記委任状の委任事項として、「ただし、取締役の氏名はマイク・オカモトとして登記する」との旨を補記。

上記の件では登記委任状の委任事項に補記することで申請人の意思を明確に伝えましたので、特に指摘はありませんでしたが、申請時の状況によっては法務局から確認を求められる可能性もあります。

また、取締役ではなく、代表取締役として登記する場合は、氏名は会社宛の送達情報としての意味合いもありますので、ニックネーム表記を採用するかどうかにつき、取締役の場合と比べて慎重に検討すべきとも思われます。

おわりに

当事務所では、海外の会社を本社とする日本子会社の設立や各種登記手続、許認可関連手続についても豊富な経験を有しています。和英併記での手続書類作成も対応可能です。お力になれることがございましたら、お問い合わせください。

司法書士・行政書士 司栗事務所代表。日本企業やグローバル企業からの依頼による会社・法人の設立、株主総会、M&A、グループ内再編、独禁法関連、特定目的会社を利用した資産の流動化、金融商品取引業、投資法人(REIT)等に係る登記手続や官公署への届出事務等に多数関与した経験を有する。
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