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宣誓供述書(Affidavit)が電子公証されている場合の登記上の取扱
2024.05.17

外国会社の登記や、合同会社の社員が外国法人の場合に添付が必要となる場合がある宣誓供述書(Affidavit)についての論点です。

近年は、紙ではなく、公証人が電子サインする形式でAffidavitが作成される場面も目にするようになりました。最近ですと、外国人に対してAffidavitを紙で取得することを依頼しても、その必要性について理解を得るのが難しい場合もあります。電子署名方式で作成されたAffidavitが登記申請において使用可能かについて検討しましたので、ご紹介します。

(1)外国でなされた電子署名は原則として日本の登記所においてほぼ受付不可

登記申請の際、添付書面情報を登記・供託オンライン申請システムに送信するには、電子証明書を添付書面情報と共に送信する必要があります。残念ながら、2024年5月現在、登記手続の際に使用可能な電子証明書は、主に日本の官公庁や企業が発行するものにほぼ限定されており、外国の電子証明書(外国で電子署名された文書)は登記手続において使用できないことが殆どです。

参考:利用可能な電子証明書の一覧(法務省民事局HP)
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji60.html#05

(2)電子署名されたpdfをプリントアウトしたものを添付することの可否

上記(1)は、あくまで、オンライン申請に伴って添付書面情報をオンラインシステムに送信することを前提とした取扱です。オンライン申請をしつつ添付書面を紙で別送する方式(いわゆる半ライン申請)や、書面申請の場合にも、電子署名されたAffidavitを添付するのでは登記申請は受理されないのでしょうか。

結論は、次のとおりです。

本国で電子署名された宣誓供述書(Affidavit)をプリントアウトして提出したものでも、登記が受理されている実例がある。但し、全国的な取扱かは不明であり、また事案ごとに個別に検討を要する。

(3)電子署名形式で受理された事例についての検討

①押印の要否

令和3年1月29日民商第10号通達により、押印規定の見直しが図られ、原則として、法令上、押印を求める規定が置かれていない書面については、押印の有無は審査の対象にならないものとされました。

外国会社の登記における宣誓供述書については、「外国会社の本国の管轄官庁又は日本における領事その他権限がある官憲の認証を受けたものでなければならない。」とされていますが(商業登記法129条2項等)、少なくとも、法令上は、押印があることが必須とはされていません。

そうすると、電子署名された宣誓供述書をプリントアウトしたものに、原本性や証明力が認められれば、押印がなくても問題ないといえる余地もありそうです。

②書類の原本性の問題

押印について審査を要しないものとされている書類について、誤解が多い点ですが、登記申請においては原本を提出することが原則であり、コピーの提出は認められていません。

そうすると、電子署名された宣誓供述書pdfをプリントアウトしたものが、「単なる原本のコピーである」と捉えられないような整理が必要となります。

ここで実際のケースを見てみます。当事務所で担当した案件で、pdfのプリントアウトのみで実際に受理されたAffidavitには、ログイン用のURLと、ID, Passwordと共に、次のような文言が入っていました。

“Whether you receive an electronic or printed paper copy of a Proof document, you can access details of the transaction and verify its authenticity with the information below.”

(参考訳:Proof文書の電子コピーまたは印刷された紙コピーを受け取った場合のいずれも、以下の情報により、取引の詳細にアクセスし、その真正性を確認することができます。)

例えばこういった文言が入っている場合、電子コピーでも紙でも、どちらであっても、署名の有効性は検証できるため、原本性が認められるという整理が可能であると思われます。この件では、Affidavit本文の他に、ID, Passwordが記載された上記の説明文書もあわせて添付することで、受理されました。(東京法務局本局、2024.4月頃に申請した事案)

このような文言が明記してある形態でAffidavitを提供しているケースが大多数とは思えませんが、一つの参考になる事案といえるかと思われます。

参考:Proof | Download a Completed Notarization

(4)注意すべき事例

pdfのプリントアウトを提出する場合、一見して、電子証明書が付されていることは確認できないことから、次の点に注意が必要と思われます。

まず、前提として、電子署名がなされていることを申請人において確認すべきです。当たり前のことのようですので、少しわかりづらいのですが、例えば、電子署名がなされたレポートダイアログのようなページがついてはいるが、pdfデータをAcrobat Reader等のツールで開いても、電子署名が有効になされていることが確認できないような場合もあります。公証人のスタンプのようなものがついてはいますが、Readerでみるとスタンプは画像データで追加されているだけ、というケースもあります。このような場合、当該宣誓供述書をそのままプリントアウトして登記申請の添付書類とすることの可否・是非につき、慎重な判断が必要なように思われます。

また、電子署名がなされた時間と、書面の内容の関係―すなわち書面の作成日付が電子署名日とある程度整合しているかといった点についてもAcrobat Reader等のツールで注意深く確認する必要があるでしょう。

公証人の属性や権限を、pdfを見る限りにおいて確認できるかどうかも重要と思われます。電子署名されたpdfの場合、公証人の情報は氏名とeメールアドレスくらいしか確認できないことも多いです。更に、海外では、電子署名をした者(公証人)のeメールアドレスがフリーメールのアドレス(gmailなど)である例も見られ、パブリックなドメインでない場合もあります。こういった場合、「外国会社の本国の管轄官庁又は日本における領事その他権限がある官憲」による証明がなされているといえるか、他の情報もあわせて特に慎重に精査し、公証人の属性の真正について説明ができるようになっている必要があると思われます。例えば、公証人の登録情報をインターネット上の公開情報で確認できるかどうかをチェックし、必要に応じてその情報を追加提出できるように準備しておくことも考えられます。

以上の点から、もし「外国会社の本国の管轄官庁又は日本における領事その他権限がある官憲の認証を受けたもの」であることが、大本のpdfデータにおいても確認できない場合は、残念ながら、宣誓供述を紙で取得(スタンプを押してもらう)ことを検討するほかないかもしれません。

(5)本論点に関する提言

現状、オンライン申請において利用可能な電子署名書が日本の官公庁や企業の発行するものにほぼ限られているという点は、外国法人が作成する添付書類を提出すべき場面において実務上大きな障害になっていることが多いです。外資系企業等の事務負担軽減のためにも、電子署名の内容から、本国官憲の認証を受けたものであることが合理的に確認可能である場合には、電子データであっても受理可能とする、等の改正を検討することが必要なように思われます。