論考・記事

外国会社の登記事項に関する論点
2024.05.07

外国会社の登記については、会社法上、「日本における同種の会社又は最も類似する会社の種類に従い、」日本の会社法上登記事項とされている事項を登記する必要があります。(会社法933条2項)

各国の準拠法に基づいて設立された会社を「日本における同種の会社又は最も類似する会社の種類に従い、」登記することについては、処理方法の判断が困難な場面が多々あり、また、参考資料の乏しさも相まって、実務上悩ましい場面が非常に多くみられるように思います。

本稿では、過去に実務で検討をした問題点等をもとに、特に検討すべきいくつかの登記事項について、主要な文献資料で述べられていることに一歩踏み込んでの実務上の整理を試みます。

(1) 共通ルール:ないものは登記しなくてよい

まず諸外国の制度上、日本の会社法下の登記事項に対応する事項がそもそも存在しない場合は、登記しなくてもよいとの見解があります(亀田哲『外国会社と登記』)。会社法の条文上、必ずしもそのように読めないようにも思われますが、いくつかの会社の登記情報をみるに、実務上、法務局もこの見解をもとに運用しているようです。

(2) 商号

外国会社の商号は、原則として、外国文字のまま登記することは認められておらず、その発音をカタカナに引き直して登記することとされている旨を述べている文献資料があります。

しかし、日本の会社と同様に、アルファベット(ローマ字)を商号の登記に使用することが可能とされていることから、少なくとも原語がアルファベット表記の会社については、アルファベット表記のまま登記することは認められているようです。実例も複数あります(GOOGLE LLC、meta platforms, inc.など)。

また、中国の会社等で、原語が漢字であり、かついわゆる正字の会社の場合、漢字表記での登記も認められている模様です。

もっとも、原語にアルファベットが用いられていない会社については、カタカナに引き直して登記をせざるを得ないものと思われます。

※外国語を勉強していると、外国語の発音をカタカナ読みで発音することには特に意味がない(日本語にない音というのが原則としてどの言語にも多くあり、カタカナ読みだと通じないため、カタカナに引き直す発想は捨てるべき)と思い知らされることが多々あります。外国人の氏名の稿でも言及しておりますが、個人的には外国語をカタカナに引き直す運用は改められるべきであると感じます。

(3) 本店の所在場所

外国の会社については、Registered Addressと、Principal Business Officeのように二つの住所が登録されている例があります。どちらの住所で登記すべきかは、確立した先例や見解がない模様であり、実務上の対応としては、会社の意向に従っていずれかの住所を本店の所在場所として登記している例が殆どではないかと思われます。

なお、英米系の会社に関していうRegistered Addressは、一般的には、裁判所からの通知や訴状の送達場所であり、それゆえAgentのAddressを設定している場合も多いようです。そのため、日本でいう本店所在場所を指すのはどちらかといえばPrincipal Business Officeの方だと思われます。しかし、その語感から、Registered Addressが、「登録された正式な住所」のように解釈されがちであり、そちらで登記をしてしまう例も見られるように思います。いずれにせよ、基本的には公的な記録として確認可能な住所の方を登記すべきと考えられますので、その意味ではAgentのAddressを選択しても大きな問題はないと思われますが、本来的には、諸外国の法制度についてできる限り理解したうえで判断することが必要なように思われます。

なお、日本における外国会社の登記申請については、例えばRegistered AddressとPrincipal Business Officeのように二つの住所を登記できないことが当然の前提となっているようにも思われますが、2つの住所を記載して申請する場合に却下や補正を求められるかは不明です(却下のリスクがあるため、一つの住所に決めて登記する方が無難であり、チャレンジをする人がいないのでしょう)。現実には、上述のような状況がありますので、外国会社の登記に関しては本店の所在場所を複数登記することができるようにしても良いのではないかと思われます。

(4) 支店の所在場所

グローバル企業の場合は全ての支店を登記する必要がある、と書かれた資料もありますが、原則論としては正しいものの、支店の全てを登記すると膨大になることから現実的にはその是非を検討する必要が生じ、整理が必要となることも少なくありません。

しかし、これは外国会社に限らず、「支店」の定義が会社法上明確でないことが問題の根底にあるように思われます。日本の会社においても、全ての営業所を支店として登記していない例も見られます。そもそも支店の登記をする意義が何なのか、日本の会社と外国会社とでその意義に差があるか、という問題にもつながりそうです。

支店を登記しない場合、当該外国会社の営業所は日本における会社法上の支店ではない(別物)と整理してしまうことが考えられるところですが、これが妥当かどうかは疑問があり、この点について実務上も見解が確立されていないようにも思われます。

(5) 役員等の資格(肩書)

いくつかの資料においては

1.資格名をカタカナにそのまま置き換えて登記する
2.資格名を日本語に翻訳して登記する

といった方法が認められるとの見解が示されていますが、2024年5月時点で法務省(法務局)が公開している登記申請書の記載例には、代表者についてのものではありますが、次のような記載があります。

「本国における代表者について、各国の実情に合わせて代表取締役又は代表執行役のいずれかの資格を記載してください(取締役又はこれに類似する者が代表権を有する場合には、代表取締役と記載し、取締役又はこれに類似する者が代表権を有せず、他に外国会社を代表する者がいる場合には、代表執行役と記載すること等が考えられます。)。」

https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/content/001365991.pdf

上記1.2.のように登記できている実例もありますので、必ずしも、「取締役」や「執行役」として登記をしなくてはならない、というわけでもないように思われます。他方で、かつては1.2.のような方法が認められていたが、現在は、取締役又は執行役として統一することを法務省(法務局)としては勧めていると解釈できる可能性もあり、検討にあたって考慮が必要と思われます。

この点も、そもそも外国の役職名を取締役または執行役に置き換えることが困難な場合もあり、また監査役などのAuditor系の資格については解釈指針が示されていないことが困難な問題を生じさせているように思われます。商号や氏名と同じく、原語の表示のまま登記をすることができればそれが最も正確であるはずなので、そのような制度になることを望みます。

(6) 公告方法

①登記事項

日本の会社と同様の公告方法の定め(会社法939条2項4~7号)に加え、日本における同種の会社又は最も類似する会社が株式会社であるときは、準拠法の規定による公告方法を登記する必要があります。

②日本国内における公告方法

日本国内で外国会社が法定公告を行うべき場面は、決算公告(会社法819条)に限られていますので、公告方法としては官報を選択している会社が殆どと思われます。なお、この他、日本における代表者全員の退任公告をする場面でも公告が必要ですが、こちらは会社が定めた公告方法にかかわらず官報に掲載することとされています(会社法820条)。

③準拠法の規定による公告方法

準拠法の規定による公告方法は、本国のRegistryや定款に公告方法の定めがあれば登記をしますが、日本における外国会社の登記の実例をみるとこの登記がされていない例もそれなりにあるように思われます。
その理由としては、(a) 「日本における同種の会社又は最も類似する会社が株式会社ではない」と整理している、あるいは (b) 準拠法の規定には公告方法の定めがない(本稿(1)のないものは登記しなくてよいルールに依拠)と整理している、かのどちらかだと思われます。

実務上は、準拠法の規定による公告方法を登記事項として含めなくても、法務局から確認を求められることはないようです。

④公告掲載URLの登記

決算公告(貸借対照表に相当するものの公告)を官報に掲載することは、殆どの外国会社について事務手続の負担も大きいと考えられることから、決算公告義務を果たすためには、本国本社のウェブサイトURLを登記するということも考えられます。

(7) 発行可能株式総数

例えば、ドイツの会社法においては、日本の会社法下の発行可能株式総数に相当する概念はなく、授権資本金額(authorized capital)という概念しかないようです。授権資本金額とは、既存の資本金に「追加可能な」部分を指すと考えるようです。日本の会社法下の発行可能株式総数とは、既発行の株式数+追加可能な株式数の合計を指しますが、ドイツでは既発行の株式数を含めて考えることはしないようです。

このようなケースにおいて、Affidavitや現地のRegistrationには記載がないが、発行可能株式総数を日本の基準で算出して登記をすることも考えられるものの、上記(1)の「ないものは登記しなくてよい」の原則どおり、法務局としては、無理やり登記しなくてもよいとして運用をしているようです(当事務所が2024年に東京法務局本局に照会した際の回答)。

(8) 発行する各種類の株式の内容

日本の会社法下は、定款で予め優先株式の内容を定めなければ、各種類株式の内容の登記をすることはできません。しかし、外国会社の登記の場合、例えば「優先株式またはその種類に関する権限、優先権、権利、資格、制限、および制約は、取締役会がその単独の裁量で随時定めるものとする。」といった内容でも登記ができている実例があります。

日本の株式会社に引き直した場合は少し違和感がある取扱かもしれませんが、Corporate RegistryやArticles of Incorporationにこのような記載があれば、そのまま登記をするということも検討をするべきかもしれません。

おわりに

当事務所は、会社法人にかかる法律事務手続を横断的に対応できる事務所を目指しており、外国会社の各種登記手続はもちろん、外為法上の対内直接投資に関する対応も可能です。また和英併記のドキュメント作成も対応できます。ご協力できること等がございましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。