論考・記事

対内直接投資に係るソフトウェア業・情報処理サービス業に関するいくつかの論点
2024.04.16

外国為替及び外国貿易法(以下「外為法」といいます。)に基づき、外為法上の「外国投資家」が、日本の会社の株式等を取得する場合、発行会社がいわゆる事前届出業種を営んでいる場合にはあらかじめ事前届出の手続きが必要になる場合があります。

本稿では、事前届出業種の判定に関して、実務上問題になりえる論点についての知見をまとめることを目的として、以下記載します。(随時追記予定)

※当事務所が過去に担当した案件で得た経済産業省の回答について記載をしている項目がありますが、当局の解釈については随時変更される可能性があります。個別の論点について、当局と相談すべき事項がある場合には必ず都度再確認をお願いいたします。

1.論点紹介

(1)ソフトウェア業、情報処理・提供サービス業

告示別表第二に列挙されている下記の事業に関しての論点です。

3911 受託開発ソフトウェア業
3912 組込みソフトウェア業
3913 パッケージソフトウェア業
3921 情報処理サービス業

近時、発行会社の定款上の事業目的として「ソフトウェアの開発・運用」や「ウェブサイトの運営」等が記載されていることは多くあります。こうした会社に関する手続を行う際、外為法上の事前届出の要否の判定につき実務上困難な場面は多くあります。

①各業種の定義

告示別表第二の各業種は、日本標準産業分類に沿って記載されています。よって、定款上の事業目的等が単に「ソフトウェア業」などと記載されている場合、まずは産業分類を手掛かりに事前届出業種に該当するかをチェックすることが必要です。

以下、日本標準産業分類における分類項目名、説明及び内容例示(平成25年10月改定)からの抜粋です。

3911 受託開発ソフトウェア業
顧客の委託により,電子計算機のプログラムの作成及びその作成に関して,調査,分析,助言など並びにこれらを一括して行う事業所をいう。
○受託開発ソフトウェア業;プログラム作成業;情報システム開発業;システム開発コンサルタント業;システムインテグレーションサービス業
×パッケージソフトウェア業[3913];組込みソフトウェア業[3912]

3912 組込みソフトウェア業
情報通信機械器具,輸送用機械器具,家庭用電気製品等に組込まれ,機器の機能を実現するためのソフトウェアを作成する事業所をいう。
○組込みソフトウェア業
×受託開発ソフトウェア業[3911];その他の電子応用装置製造業[2969]

3913 パッケージソフトウェア業
電子計算機のパッケージプログラムの作成及びその作成に関して,調査,分析,助言などを行う事業所をいう。
○パッケージソフトウェア業
×受託開発ソフトウェア業[3911];ゲームソフトウェア業[3914];情報記録物製
造業[3296]

3921 情報処理サービス業
電子計算機などを用いて委託された情報処理サービス(顧客が自ら運転する場合を含む),データエントリーサービスなどを行う事業所をいう。
○受託計算サービス業;計算センター;タイムシェアリングサービス業;データエントリー業;パンチサービス業

②例外規定の確認

ソフトウェア業であっても、いくつかの要件に該当する場合は例外的に事前届出業種には該当しません。これについては、同別表の注釈に以下の記載があります。

※1 対内直接投資等に関する命令第三条の二第三項の規定に基づき、財務大臣及び事業所管大臣が定める業種を定める件(令和二年内閣府、総務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省告示第四号)に掲げる業種に該当するソフトウェア業又は情報処理・提供サービス業に属する事業以外にあつては、別表第三に掲げる業種に属する事業(以下この※1及び※2において「別表第三事業」という。)に付随して実施し、又は別表第三事業のみを営む親会社(会社法(平成十七年法律第八十六号)第二条第四号に規定する親会社をいう。以下この※1及び※2において同じ。)若しくは当該親会社の子会社(同法第二条第三号に規定する子会社をいう。※2において同じ。)のうち別表第三事業のみを営むもののために実施するソフトウェア業及び情報処理・提供サービス業に属する事業(当該事業を営む会社の他のもの(当該会社の関係会社(会社計算規則(平成十八年法務省令第十三号)第二条第三項第二十二号に規定する関係会社をいう。)のうち別表第三事業のみを営むもの及び当該別表第三事業のみを営む他の会社を除く。以下この※1及び※2において同じ。)から委託を受けてソフトウェアの開発を行うもの及び他のものが保有するデータを扱う情報処理サービスを提供するものを除く。)を除く。」

https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/gaitame_kawase/fdi/attached_table2.pdf

非常に読みにくいのですが、要約しますと、以下に該当するものは事前届出業種の対象からは除かれるとされています。

・事後報告業種に付随して実施するもの
・事後報告業種のみを営む親会社等グループ会社等のために実施するもの

但し、例外として、次のものは事前届出業種に該当する可能性がありますので、注意が必要です。

・第三者から委託を受けてソフトウェアの開発を行うもの
・第三者が保有するデータを扱う情報処理サービスを提供するもの

③経済産業省の解釈

経済産業省によれば、ソフトウェア業や情報処理サービス業については、日本拠点においてローカライズや技術サポート、データ処理等を行っているのであれば事前届出業種に該当するという運用をしている模様です(当事務所が過去に経済産業省安全保障貿易管理政策課に照会した際の回答によります)。

したがって、例えば本国の親会社がソフトウェア業や情報処理サービス業を行う会社が、日本子会社を設立するにあたって外為法上の届出の要否を検討する場合であれば、発行会社たる日本子会社がどのような形でビジネスを行っているかという観点から判断することが必要となります。

(2)遠隔管理を行うソフトウェア・サービス

コア業種を定める告示(対内直接投資等に関する命令第三条の二第三項の規定に基づき、財務大臣及び事業所管大臣が定める業種を定める件)には、コア業種の一つとして次のものが挙げられています。

「システム及び端末等に対し、当該システム及び端末等とは別のシステム及び端末等から管理(機器構成の変更又は情報の収集等を含む。)を行うソフトウェア・サービス」

経済産業省によれば、例えば自動車(=システム及び端末等)に対し、カーディーラーの端末から管理を行うソフトウエア・サービス等もこれに該当する可能性あるとの解釈を採用している模様です。(当事務所が過去に入手した経済産業省からの通知文による)

こうした解釈を踏まえると、IoT機器を始めとして、幅広い機器やサービスを取り扱う事業については事前届出業種と判定される可能性が高いように思われます。特に注意が必要と思われます。

2.おわりに

当事務所では、外国法人を親会社とする会社設立等の各種登記手続のほか、それに付随して必要となる外為法上の届出/報告等に関する事務についても対応可能です。
各種の会社法上の登記手続については司法書士が対応することができても、外為法上の届出・報告については行政書士資格がなければ取り扱うことができないため、外為法の問題をケアしつつクロスボーダーの手続きを対応できる専門家は少ないのが現状です。
当事務所では、大手法律事務所で勤務経験のある司法書士と行政書士の両資格保有者により、クロスボーダーも含めた会社・法人の法律事務手続を横断的に対応できる体制を整えております。ご相談事項等がございましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。