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事業年度(決算期)変更に関する実務上の留意点
2023.03.10

会社が事業年度(決算期)を変更する場合の手続きと実務上の留意点について整理します。

1.変更手続

事業年度は定款の記載事項となっていることが一般的であるため、株主総会決議によって定款の一部を変更する手続きが必要となります。

事業年度は登記事項ではありませんので、変更登記は必要ありません。
従って、通常は、株主総会決議を行うだけの単純な手続きとなります。

ただし、後述のとおり役員の退任が生じる可能性があり、その場合は役員の再選及びそれに付随する登記手続も必要となりますので、注意が必要です。

2.役員の退任に注意

取締役や監査役の任期は、「選任後〇年以内に終了する事業年度のうち最終のもの」とされていることが一般的です。そのため、事業年度が変更された場合に、すでに就任している役員の任期に影響を及ぼす場合があります。

具体的には、「定款を変更して取締役の任期を短縮した場合には,現任の取締役の任期も短縮され、定款の変更時において既に変更後の任期が満了しているときは、当該取締役は退任することとなる」とされています。(昭和35年8月16日付け法務省民事四第146号法務省民事局第四課長心得回答参照)

つまり、①事業年度を変更した結果、②変更後の定款を基準に考えると定款変更の時点で任期が満了している場合、役員が退任することになります。

事業年度変更の手続き自体がシンプルなこともあいまって、検討を落としやすい点でもあり注意が必要です。

なお、任期が約1年として設定されている会計監査人についてはこの問題が発生しやすいため、特に注意が必要です。
会計監査人は、定時株主総会において別段の決議がなされなかったときは、当該定時株主総会において再任されたものとみなされます(会社法第338条第2項)。
しかし、任期短縮に伴う退任の場合は、このみなし再任の適用はなく、改めて会計監査人を選任する手続きが必要になると考えられます。

3.決算期の経過措置に注意

附則として次期事業年度までの経過措置を設ける場合、事業年度は1年6箇月を超えることができないとされています(会社計算規則第59条第2項)。

例えば、事業年度を12月末→3月末に変更する決議を2023年10月に行う場合、
第3期:2023/1/1~2023/12/31 を 2023/1/1~2024/3/1 に変更
第4期:2024/3/1~2025/3/1 
とするなど、第3期を経過的に1年以上の期間に設定することがあります。

1年6箇月を超えて事業年度を設定してしまうようなことは、あまり考えられませんが、念のため意識しておく必要があり、注意が必要です。

4.税務上の問題も

会社法上は認められている1年6箇月の範囲内であっても、事業年度の変更は税務上の観点から不都合が生じることがありますので、この点にも注意が必要です。

例えば特定目的会社など、会社形態によっては、1年を超える事業年度(会計期間)を設定した場合に、いわゆる税法上の導管性要件を満たさず、税務上の優遇策が受けられなくなる場合があります(租税特別措置法施行令第39条の32の2第4項参照)。

会計・税務の実務上、不都合が生じることがないか、それぞれの専門家と確認して進めることが必要であるように思われます。