特定目的会社(TMK)の設立に関する実務上の留意点 ~原始定款~

特定目的会社(TMK)は、資産の流動化に関する法律(以下「流動化法」)に基づき設立される会社です。
設立手続は株式会社と似ている点も多くありますが、TMKを用いた流動化スキームを理解し、流動化法上の業務開始届出や資産流動化計画(Asset Liquidation Plan: ALP)等の関係にも注意しながら手続を進める必要があります。

流動化スキームを用いた案件に関与するのは、一定規模以上の法律事務所が多く、設立から先の手続は、司法書士・行政書士の関与が少ないのが現状です。
本稿では、司法書士・行政書士の目線から、設立から先の手続も見据えながら、主に手続的な視点で留意点をまとめます。第1回目は主に原始定款におけるチェックポイントについて解説します。

TMKの定款認証について/株式会社等との相違点

ほとんど株式会社等と同じですが、手続面では以下の点が異なります。

・TMKの定款は紙の定款であっても印紙税は課されません。
(印紙税の課税対象は、株式会社、合名会社、合資会社、合同会社又は相互会社の設立のときに作成される定款の原本に限るため。)
・実質的支配者申告書も不要です。(株式会社、一般社団法人、一般財団法人が対象のため。)

会計監査人に関する論点

(1)設置義務

TMKは、一定の場合を除き、会計監査人を設置する義務があります(流動化法第67条)。この点は、株式会社と異なり、設立が強制される場面が広いため、注意する必要があります。

条文の文言からは解釈が難しいのですが、実務上は、業務開始届出時までに会計監査人を設置すれば良いという運用になっています(設立時から特定社債以外の資産対応証券を発行するかどうか確定しているわけではないため)。

そのため、設立時は一旦取締役及び監査役のみで設立し、業務開始届出を行う直前に、臨時社員総会を開催して会計監査人を設置する例が多いです。

ただし、設立から業務開始届出までのスパンをなるべく短くしたいという要請がある場合は、設立時から会計監査人を設置しておくのが効率的と考えられます。ただしこの場合、会計監査人に支払う報酬の発生時期も早くなる点に注意する必要があります。

(2)会計監査人設置会社の定款の定め

一部の文献において、定款中、会計監査人設置会社の定めの記載がなくても、会計監査人就任の登記が受理されている例があるとの記載があります。しかしこの点は司法書士的な感覚では違和感があり、注意が必要です。

TMKの登記事項を定める流動化法第22条第2項第11号は「特定目的会社が会計監査人設置会社であるときは、その旨及び会計監査人の氏名又は名称」と規定しています。このことからすると、会計監査人設置会社である旨と、会計監査人の氏名又は名称は、原則として一体として登記されるべきものではないかと考えます。

会計監査人を設置する場合には、会計監査人設置会社である旨の定款規定を置くことが原則的な取扱と考えるべきでしょう。

(3)就任承諾書

会計監査人を選任する場合、監査法人内での手続に係る時間を考慮してスケジューリングする必要があります。

登記手続には会計監査人の承諾書が必要となるところ、就任承諾書を発行する前提として、TMKが監査契約を会計監査人たる監査法人等と締結することが必要なことが多いと思われます。

この関係で、監査法人内での決済に時間がかかり、就任承諾書が取得が想定より遅れる場合があります。実務上は、こうした点に注意してスケジューリングすることが肝要です。

優先出資社員の議決権に関する論点

優先出資社員は、法令及び定款に別段の定めがない限り、社員総会における議決権を有しないものとされています(流動化法第27条第4項)。通常は、TMKの原始定款においても、上記のとおり規定しておくことが多いです。

ただし、①TMKが特定資産として金商法上の有価証券(不動産信託受益権等)を保有することが想定されている場合、かつ、②アセット・マネジャーが投資運用業の登録をしていない場合、金商法上の要請から、優先出資社員を含めた社員総会決議によって投資判断を行う建付にすることがあります。この場合、金商法上の有価証券の売買や、金利スワップ取引・金利キャップ取引の実行につき、優先出資社員に議決権を持たせるための定款の定めを置くことがあります。

海外の法人がアセット・マネジャーになる場合に、こういった問題が生じることもあり、原始定款の策定にあたって、注意が必要です。

司法書士・行政書士 司栗事務所代表。日本企業やグローバル企業からの依頼による会社・法人の設立、株主総会、M&A、グループ内再編、独禁法関連、特定目的会社を利用した資産の流動化、金融商品取引業、投資法人(REIT)等に係る登記手続や官公署への届出事務等に多数関与した経験を有する。
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