特定目的会社(TMK)の優先出資発行登記

特定目的会社の優先出資発行登記について、具体的に解説した資料が少ないようなので、実務上の注意点等も交えて解説します。なお、本稿において「資産の流動化に関する法律」を「流動化法」と表記します。

1.登記すべき事項

(1)登記すべき事項

流動化法42条1項に規定されています。

 優先資本金の額
 内容の異なる二以上の種類の優先出資を発行するときは、優先出資の総口数並びに当該優先出資の種類ごとの口数並びに利益の配当又は残余財産の分配についての優先的内容及び消却に関する規定
 優先出資社員名簿管理人の氏名又は名称及び住所並びに営業所

第三号の、優先出資社員名簿管理人が置かれる例は実務上見たことがありません。
そのため、基本的には種類優先出資の有無を確認して登記事項を判断します。

(2)注意点

特定目的会社の募集優先出資発行は、株式会社の募集株式発行と異なり、登記が効力発生要件となります(流動化法42条2項)。

「優先資本金の額」●円

の振り合いで、登記申請書に記載します。原因年月日を記載しないのがポイントです。

2.登記の原因

(1)記載例

申請書に記載する「登記の原因」について、実務上は様々な記載例があるようですが、一例としては下記のようになります。

「令和●年●月●日 募集優先出資発行の手続終了」

募集優先発行と同様に登記が効力発生要件となる株式会社設立の場合は、法務省民事局の記載例では「年月日 発起設立の手続終了」とされています。優先出資発行についても、登記が効力発生要件となる手続であるため、「手続終了」とするのでよいと思われます。

(2)年月日はいつか

以下の理由から、「令和●年●月●日 募集優先出資発行の手続終了」の年月日としては、払込完了日を記載するのが妥当だと思われます。

株式会社の発起設立の場合は、調査終了日か発起人が定めた日のいずれか遅い日となります(会社法911条1項参照)。そして、実務上はあまり意識しませんが、登記申請は、この日から二週間以内にしなければなりません。登記が効力発生要件となる手続の場合、「登記の原因」欄には、この義務の起算日を記載するのが実務上の扱いです。
募集優先出資の場合も、「その発行に係る優先出資の総口数の全額の払込みがあった日から二週間以内に」登記申請をすることとされています(流動化法42条1項)。そのため、株式会社の設立と同様に、登記義務の起算日、すなわち払込完了日を年月日として記載するのが妥当だと思われます。

3.添付書類

一般的に必要となる添付書類は下記のとおりです。

  • 取締役決定書(流動化法183条、商業登記法46条)
  • 資産流動化計画(ALP)(特定目的会社登記規則3条、商業登記規則61条1項)
  • 引受けの申込み又は総数引受契約を証する書面(流動化法186条)
  • 払込金保管証明書(流動化法186条)
  • 登記委任状(流動化法183条、商業登記法18条)

※平成18年4月28日民商第1140号通達 「会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律の施行に伴う商業・法人登記事務の取扱いについて」参照。
※前述のとおり、優先出資社員名簿管理人を置く例は稀なので、この点は考慮していません。

4.スケジューリングの注意点

株式会社の募集株式発行と同様に、法的には、総数引受契約を締結する前提であれば、募集・引受・払込・効力発生・登記を同日に行うことは理論上可能です。

しかし、実務上、特定目的会社の場合は、募集決定~効力発生までを一日で行うことは不可能であることに留意する必要があります。

理由は、株式会社の募集株式発行と異なり、①登記が効力発生要件であること、②払込金保管証明書が添付書類となることです。

通常、払込金保管証明書の発行を銀行に依頼する場合、概ね払込期日の3営業日前までに、払込事務委託関連書類を銀行に提出する必要があります。銀行によっては、提出前に、事前に書類に不備がないかの内容確認を求める場合もあるようです。払込事務委託に際しては、取締役決定書の写しや、引受申込書(引受契約書)の見本、ALP等が添付書類になる場合が殆どです。
また、銀行事務手続の関係上、払込金保管証明書は、払込期日の翌営業日以降でないと受け取れない場合が多いようです。
これらを総合すると、募集決定から登記までを同日で行うことは原則として難しいといえます。

以上を考慮したスケジュール例は下記のとおりです。

~X-5営業日前・関東財務局への業務開始届出又は優先出資発行に係るALP変更
X-4営業日・募集決定(流動化法39条)
・引受申込人への通知(流動化法40条1項)
・引受申込(流動化法40条2項)
・払込取扱銀行に対する払込事務委託(手続書類の送付等)※期日は銀行ごとに異なる。
X-3営業日
X-2営業日
X-1営業日・払込期日
X(効力発生日)・払込金保管証明書発行
・優先出資発行登記(効力発生)
司法書士・行政書士 司栗事務所代表。日本企業やグローバル企業からの依頼による会社・法人の設立、株主総会、M&A、グループ内再編、独禁法関連、特定目的会社を利用した資産の流動化、金融商品取引業、投資法人(REIT)等に係る登記手続や官公署への届出事務等に多数関与した経験を有する。
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