論考・記事

完全オンライン・印鑑届出なしの株式会社設立手続に関する考察
2023.03.12

令和3年2月15日に商業登記規則等の一部を改正する省令が施行され、

①オンライン申請の場合には印鑑の提出が任意になり、
②印鑑届書の提出及び商業登記電子証明書の請求がオンラインで行えるようになり、
③登記の申請や印鑑証明書の請求などで使用することができる電子証明書の種類が広がりました。

参考:法務省民事局
商業登記規則が改正され,オンライン申請がより便利になりました(令和3年2月15日から)
moj.go.jp/MINJI/minji06_00070.html

本稿では、株式会社を新規に完全オンライン(添付書類を法務局に持参することが不要な申請)で設立し、かつ印鑑提出を行わないと仮定して設立手続きを行う場合について、論点の整理を試みます。

1.定款認証手続

以下のいずれかの要件を満たすことにより、テレビ電話により認証が可能になっています。

①発起人、設立時社員その他法人を設立する者(以下「発起人等」という。)が、自ら電子定款又は電子委任状に電子署名をする。

②発起人等が電子署名をできない場合:発起人等から、定款作成代理人(士業者)に対し、紙の委任状(印鑑登録証明書等付きのもの)で定款作成を委任し、定款作成代理人がその委任状及び添付書類(発起人の印鑑証明書・法人の場合は登記事項証明書及び印鑑証明書の原本)を公証役場に郵送する。

令和2年5月11日から②の要件が加わり、利用がしやすくなりました。
(ただし紙の書類の原本を郵送する必要がある点で完全オンラインではありませんが。)

参考:日本公証人連合会 9-4 定款認証
https://www.koshonin.gr.jp/notary/ow09_4

2.実質的支配者の申告書等

令和4年1月1日から、電子定款に関する申告書(①実質的支配者の申告書、②同一情報の提供の申請書、③嘱託人作成の各種上申書)については、押印や電子署名は不要となりました。

実務上は、完成済の申告書を、pdfでメールに添付して公証役場に送付することで足りる取扱も多いものと思われます。

ただし、表明保証書(※)のみ、性質上、実質的支配者本人が作成することを要しますので、署名が必要です(押印は不要)。

※表明保証書:実質的支配者申告書中の、「(暴力団員等に)非該当」の選択肢を○で囲むことに代えて、実質的支配者となるべき者が作成したその旨の表明保証書を提出することも可能であるとされており、当該表明保証書を指します。

3.登記手続

登記申請に必要な添付書面情報を、申請書情報に添付して登記申請をします。

添付書面情報には、作成者の電子署名を付与する必要があります。使用できる電子証明書の種類には制限があります(法務省:商業・法人登記のオンライン申請について)。利用しようとする電子証明書が対象となっているか事前の確認が必要です。

完全オンライン申請を行うためには、以下の方々の全員の電子証明書が必要になります。

・発起人
・設立時取締役、監査役、会計監査人等
・設立時代表取締役

結論としては、いわゆる一人会社の場合は、発起人であり代表取締役となる者が所定の電子証明書を取得すれば、完全オンラインでの申請ができます。

4.従来法務局届出印を押印していた書類の取扱

(1)払込証明書、資本金の額の計上に関する証明書

従来は、これらの書類には登記所届出印の押印が実務上求められておりましたが、令和3年1月29日付通達「会社法の一部を改正する法律等の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律の施行に伴う商業・法人登記事務の取扱いについて(通達)」により、押印を求められなくなりました。

(2)委任状

委任状情報に申請人(株式会社の場合は代表取締役)本人の電子署名が付与されている場合、印鑑の提出は必須ではなくなりました。そのため、完全オンラインの場合には、代表取締役本人の電子署名を付すことになります。

ただし、代理人による登記申請で、委任状を書面により持参又は送付する場合は、印鑑届書及び代表者の個人の印鑑証明書を管轄の法務局に持参又は送付する必要があります。

参考:会社法の一部を改正する法律等の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律の施行に伴う商業・法人登記事務の取扱いについて(通達)
https://www.moj.go.jp/content/001341879.pdf

参考:法務省民事局 商業・法人登記のオンライン申請について
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji60.html

5.発起人や役員が外国法人又は外国人の場合は

上記3.に記載のとおり、使用できる電子証明書には制限があり、ほとんどが日本国内の電子証明書に限られていることから、外国法人又は外国人が電子署名をした添付書類情報で手続きをする場合は、電子証明書の規格が登記上使用できるものになっているかの確認が必要である点につき、留意が必要と思われます。

合同会社の設立等では、日本の法務局で使用できる電子署名に外国政府機関等の電子署名は含まれていない場合が多くあると思われ、宣誓供述書を紙で用意せざるを得ないという場合が考えられます。

6.展望と課題

日本の会社の場合、法務局が発行する印鑑証明書は、商取引慣行上まだまだ求められることが多いです。そのため、印鑑届出の任意化は、印鑑制度がない外国法人が日本子会社を設立するときに特にニーズがあるように思われます。しかし、上記5.のとおり、外国法人や外国人が手続きに絡んだ場合に、使用できる電子証明書の制約があり、実際には印鑑を用意せざるを得ない場面もあるという点で、課題があるように思われます。法務局で使用できる電子証明書の種類は順次増えている状況ではありますが、今後の制度改正に期待したいところです。