事業承継と司法書士・行政書士が貢献できる役割

高齢化社会の進行から、個人の相続だけでなく、いわば会社の相続ともいえる事業承継への関心が高まっています。司法書士・行政書士の目線で、いくつかのポイントについて整理を試みます。

1.中小企業の現在地と事業承継の必要性

中小企業庁のデータより、注目すべきと考えられる点をいくつかプロットします。(引用元:中小企業白書2022)

2021年の休廃業・解散件数は、4万4,377件であり、2020 年、2018 年に次ぐ、高水準である。また、経営者の平均年齢は上昇傾向にあり、休廃業・解散件数増加の背景には経営者の高齢化が一因にあると考えられ、引き続き、こうした状況への対応は喫緊の課題である。

2021年は、70代の割合が最も高く、42.7%となっている。また、70代以上が全体に占める割合は年々高まっており、2021年は6割超となっている。

2.事業承継の手法(承継先)

下記の3つに区分されます。表形式で簡潔に主な特徴を整理しました。

承継先メリットデメリット
親族身近な選択肢。従業員等の理解が得やすい。親族間でトラブルになる可能性に留意。
従業員身近な選択肢。従業員等の理解が得やすい。経営者の連帯保証に関して問題が生じることが多い。
第三者社内に後継者がいなくても可。外部の知見によって更なる成長も期待できる。売却先選定、会社価値算定、契約交渉等に年単位の時間を要する。

近年は第三者に対する承継(M&A)の件数が増えており、ネガティブなイメージも払しょくされてきています。

3.誰に相談すべきか

特に第三者への承継を検討する場合、ノウハウがない状態では何から手をつけてよいかわからないという場合が一般的かと思われますので、専門家の活用は強く推奨されます。
相談先として考えられる機関を挙げると下記のとおりです。

  • 銀行、地方銀行等の金融機関
  • M&Aの仲介業者
  • 支援センター(商工会議所が窓口を設けている場合があります。)
  • M&Aプラットフォームサービスを提供している業者
  • 弁護士
  • 会計士
  • 税理士
  • 中小企業診断士

4.司法書士・行政書士が貢献できること

司法書士や行政書士については、一次的な相談機関としては活用されていないのが現状ですが、果たすべき役割も多くあると考えます。

(1)各種登記手続

例えば会社の登記事項に変更があったときは、原則として、変更から二週間以内に、変更の登記を申請しなければなりません(会社法第915条第1項)。
これは役員が死亡した場合でも例外ではないため、例えば突然会社の代表者がお亡くなりになってしまったときなどには、早めに登記の専門家である司法書士にご相談いただくことをお勧めします。代表者が死亡したことで役員の法定員数を欠いた場合に、困難な問題も生じ得るためです。
また、後継者(取締役や代表取締役社長)の選任についても、会社法上の所定の手続きを経て行ったうえで、登記申請をする必要があります。この点も含めて司法書士がサポートできることは多くあります。
その他、代表者が不動産を所有していれば、当該不動産に関して、売買・相続等に関する登記手続も必要となります。

(2)許認可関連の変更手続

登記手続と同様、会社の役員の変更が生じた際には、各種許認可(建設業、飲食業、etc.)において変更届出が求められていることが一般的であり、早めに行政書士等の専門家にご相談いただくことをお勧めいたします。

(3)会社法上の手続きのサポート

第三者への承継はもちろんですが、親族や従業員への承継であっても、株式の譲渡や名義書換については、会社法上の所定の手続を経て行う必要があります。株式に譲渡制限が付されているかや、株券の発行の有無で、必要な手続きが変わってきますので、専門家と確認しながら手続きを進めることをお勧めいたします。必要な事実確認を経て、証跡として書面化をするという作業は、行政書士等の専門家が関与することが可能ですし、登記手続が関係するものは司法書士がサポートすることが可能です。

5.法律関係は弁護士?司法書士?行政書士?

日本には法律系の専門家が弁護士、司法書士、行政書士等と分かれており、誰に頼むべきかというのは一般の方から見て非常にわかりづらいと思います。

事業承継に関しては、紛争の可能性の有無をもとに検討されると良いかもしれません。

弁護士は紛争解決(訴訟)等のプロであり、司法書士や行政書士は、通常紛争の解決を代理することはできません。例えば親族間で争いが生じる可能性があったり、また第三者との契約交渉が伴う場合は弁護士に関与してもらうのが望ましいと考えられます。

他方で、紛争性がなく、手続面を粛々と進めたい場合は、司法書士や行政書士の方がスムーズに手続きが進む可能性が高いと考えます。実は弁護士は登記や行政手続には精通していないことも多く、これらについては手続面のプロである司法書士や行政書士の方が豊富なノウハウを有している場合が多いためです。

6.まとめ

現状、特に第三者への承継については、M&A仲介会社らが中心となって進め、司法書士や行政書士は、必要な手続きが発生した場合のみアウトソースされてそれを引き受けるという形態にならざるを得ないように思っています。
しかし、民間のM&A仲介会社らは法律のプロでは必ずしもありませんので、法務面についても早めに専門家の活用をしていただくことをお勧めいたします。

司法書士・行政書士 司栗事務所代表。日本企業やグローバル企業からの依頼による会社・法人の設立、株主総会、M&A、グループ内再編、独禁法関連、特定目的会社を利用した資産の流動化、金融商品取引業、投資法人(REIT)等に係る登記手続や官公署への届出事務等に多数関与した経験を有する。
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