論考・記事

転換社債型新株予約権付社債(CB)の発行と実務上の論点
2023.03.10

本稿では、過去に取り扱った案件の経験をもとに、転換社債型新株予約権付社債(CB)の発行に伴って検討した論点について整理します。

1.社債管理者に関する論点

(1)社債管理者の設置要否の確認

会社法上、社債を発行する場合には、次の場合を除き、社債管理者を定めるものとされています(会社法第702条、会社法施行規則第169条)

・各社債の金額が一億円以上である場合

・ある種類の社債の総額を当該種類の各社債の金額の最低額で除して得た数が五十を下回る場合

例えば、各社債の金額が5000万円、発行口数を100口と設定した場合、この除外要件に該当せず、社債管理者の設置が必要となってしまいます。
大企業に比べて比較的少額の社債を中小ベンチャー企業が発行する場合、この要件にヒットする場合があり、注意が必要です。

予定している総額を変更せずに対応する方法の例としては、口数ごとの金額を一億円以上に引き上げ、発行口数が50を下回るように調整することが考えられます。

いずれにしても、口数・金額の設定については法的観点からの検討も必要です。場合によっては、追加で煩雑な手続きが必要になる可能性がありますので、留意が必要です。

(2)社債管理者を定めない場合でも、社債原簿にはその旨の記載が必要

令和3年3月1日施行の会社法改正により、「社債管理者を定めないこととするときは、その旨」「社債管理補助者を定めることとするときは、その旨」が募集社債発行に係る決定事項となりました(会社法第676条第7号の2、第8号の2)。なお、社債原簿記載事項でもあります(同法第681条)。

リピート発行の場合等で、以前の社債要綱や社債原簿にこの記載を欠いたまま、そのまま使いまわしてしまうミスが発生する可能性があり、注意が必要です。

2.金融商品取引法に関する論点

上記1.(1)に関連して、50名以上の者を相手方として、新たに発行される有価証券の取得の申込みの勧誘を行う場合、金融商品取引法(以下「金商法」といいます。)上の有価証券の募集に該当する可能性があります。結果、発行(売出)価額の総額に応じて、関東財務局に対し、有価証券届出書又は有価証券通知書等の提出が必要となる可能性があります。

資金調達の場面では金商法について一定程度の知見がある専門家が介在していない場合、手続きの遺漏が発生する可能性があり、注意が必要です。弁護士であっても金商法の検討を見落とす例を見たことがありますので、手続きを進めるにあたっては、実績のある専門家の選定をお勧めします。

3.社債の払込金を貸付金と相殺することの可否

CBの条件決定や発行決議はまだだが、先に一部の投資家が確定しているため、この者らと先に金銭消費貸借契約を締結したうえで資金を速やかに調達し、後に転換社債型新株予約権付社債の払込金額と貸付金とを相殺することは可能か、といった場面で問題になり得ます。

この点については、①社債権者から、当該金銭消費貸借契約に係る貸付債権を代物弁済(現物出資)する構成、②社債払込金と当該金銭消費貸借契約に係る貸付債権を相殺する構成のいずれかが考えられます。

①については会社法施行規則第162条第3号の存在を根拠に現物出資は可能とする見解もありますが、反対の見解もあります。②については、募集社債の金銭の払込債務と会社に対する債権との相殺は可能と一般的には解されています。

参考:江頭憲治郎、中村直人 編著『論点体系 会社法<第2版>5』(2021年、第一法規)