司法書士特別研修の感想と反省 (2)ファシリテーション

私が研修中に色々検索して調べていたことを、研修が終わってから、私の答え、感じたこと、考えたことに置き換えて、まとめてみました。来年度以降の受講者の方に少しでも参考になればと思います。第2回は、グループワークにおいて重要だと感じたことについてです。

前回の記事はこちら↓

1.はじめに

受講者は、司法書士の実務経験者もいるし、そうでない人もいるし、最近まで大学生だった方もいる―つまり皆のバックグラウンドは様々です。そして、研修に参加する目的も、全員が同じものを持っているわけではないように感じられました。簡裁代理権取得のための研修なのですが、そもそも司法書士未登録の方もいらっしゃいましたし、各受講者が簡裁代理業務を今後司法書士として扱うつもりなのかどうかも、それぞれ異なると思われたからです。単に人脈づくりで来ていた方もいらっしゃったのかもしれないし、なんとなく特別研修は慣例的に受けるものだから、という理由のみで参加されていた方も多くいらっしゃったように思われました。

2.ファシリテーション

上記のとおり、多様なバックグラウンドをもつ方が参加している中、研修ではグループワークをすることが求められます。具体的には、グループディスカッション(zoom形式の場合も有)をして、各自の訴状や答弁書のドラフトをまとめ、時間内に一つの成果物として提出することを何度か求められます。

こうしたとりまとめをするにあたり、役にたった、また必要だと思ったのが「ファシリテーション」の考え方です。下記は、連合会が記載していた書籍以外の、私のおすすめするもう一つの「参考書籍」です。

この本には、発言が消極的な人にも会議に参加してもらい、参加メンバー全員が納得感を感じたうえで成果物を作る方法論が書かれています。例えば、まず全員の意見を、付箋に書いてホワイトボードに貼っていく等して、一度全てのアイディアを議論のテーブルにフラットに乗せてみること。司会者は司会に徹し、自身の意見の発言は抑え、メンバーが均等に発言できるよう立ち回る意識で振る舞うこと。といった例が挙げられています。こうした方法論は特に参考になりました。

私たちのグループは、幸い、中盤以降は、ファシリテーションを意識しなくても、自発的に全員が均等に発言し、そしてメンバーの全員に、どこかの場面で活躍をした各自の「ハイライトシーン」があって、うまくディスカッションができていたように思いました。メンバーに恵まれていたのだと思います。もしかしたら、一部の議論においては、進行に不満を感じたり、納得感が得られないまま終わったという感想を持ったメンバーも実はいたのかもしれません。しかし、概ね、うまく、グループワークができていたように思います。

他方、他のグループを見ていると、リーダー役の方を中心にドラフトを起案し、他のメンバーはそのサポートに回り加除修正をするという進め方をしているところがありました。しかし、私はなるべくなら全員に均等に活躍の機会が与えられるような進め方をとった方が、研修内でのグループワークという観点からも良かったのではないかと思っています。

法律的なことに関する図書だけでなく、ファシリテーションの考え方の予習はおすすめです。

3.考査のため?実務のため?

受講者のバックグラウンドが様々であることに加え、この研修は受講者全員のゴールが一致しているわけではなく、各人ごとに若干のずれがあったように感じられました。

私が強く感じたのは、研修の性質を、①考査に合格する前段階として必要なもの、と理解するのと、②今後依頼者の利益のために実務をこなすためのもの、と理解するのでは、成果物の起案や研修の姿勢に関するアプローチが全く違ってくるように思われたことです。なお私はどちらかというと②の立場を重視して臨んでいました。しかし、①に重点を置いている方も多くいらっしゃったような印象であり、そこに齟齬を感じていました。

訴状の起案に関するグループワークを例にとります。①のアプローチの場合、考査では要件事実以外を抜き出して主張することは不要ですので、必然的に、最低限の内容で、教材や講師が求めている答えを、テストの解答を書くように、起案することになります。他方、②のアプローチの場合、実務的には要件事実以外の事情や主張も盛り込むことが一般的なので、必然的に①のアプローチで臨む方とは起案の方針や成果物のボリューム感に齟齬が生じます。また、実務的には、予め想定された答えと異なる解決方法が考えられるのではないかという設問もありました。

私は特別研修が終了した後、認定考査の準備を始め、①のアプローチで簡裁代理権についての理解を深める作業に入りました。そして、「考査に合格する用の」事案処理の道筋や考え方を学ぶと同時に、なぜ①のアプローチをとっている方が多かったのかを理解することになりました。例えば、私は、実務的には、模範解答以外にもこういう対応方針や考え方もあるのではないか等と、何度か意見を出したり講師に質問をしたりしていました。しかし、これは①のアプローチで捉えている方からすると、無駄な意見や質問であり、非常に空気を読めない人に見えていたと思います。この点は、成果物の取りまとめ等をするうえで、意識しておいた方が良いように感じました。

おそらく、認定考査と特別研修の実施順序は、本来は逆にすべきなのではないかと思われます。すなわち、要件事実等に関する学問的な知識を体系的に学び、その習熟度を認定考査で確認してから、実務的な演習を行うとスムーズだと思うのですが、まず実務的な演習を行ってから学問的な知識の習熟度を確認しているのが現行制度です。もっとも、これは変更するのが難しいと思われるので、上記①と②のアプローチがあることを念頭に入れつつ、受講者がお互いに、各々のゴールやアプローチを尊重しながら、研修に臨むのが良さそうです。

司法書士・行政書士 司栗事務所代表。日本企業やグローバル企業からの依頼による会社・法人の設立、株主総会、M&A、グループ内再編、独禁法関連、特定目的会社を利用した資産の流動化、金融商品取引業、投資法人(REIT)等に係る登記手続や官公署への届出事務等に多数関与した経験を有する。
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