司法書士特別研修の感想と反省 (1)必読図書・参考図書について

2023年度(第22回)の特別研修に参加しました。

私が研修中に色々検索して調べていたことを、研修が終わってから、私の答え、感じたこと、考えたことに置き換えて、まとめてみました。来年度以降の受講者の方に少しでも参考になればと思います。第1回は、必読図書・参考図書は買うべきかについてです。

1.全図書の購入は不要と思われる

研修の募集案内には、必読図書・参考図書リストが掲載されていましたが、実際は、その全てが購入必須ではないと思われます。何より、必読図書の冒頭に、「『憲法 第七版』 芦部信喜 著/高橋和之 補訂」が記載されていた時点で、おそらくこれらの全てが「必読」ではないと思いました。私は研修の内容が明らかになってから随時必要なものだけを買うことにしました。個人的には、その方針で間違いはなかったと思いました。

この点は、連合会が、本来必要でないものの購入を受講者に促すような意図も透けてみえ、正直いって不誠実に感じられました。本当に必要なものに絞るか、なぜ必読なのか理由を示すか、配布された研修資料でカバーできていない部分として具体的にどの点を必読図書でカバーすべきなのか、これらを明確にするべきである、と研修後のアンケートで要望しました。これらの点についての私の見解は本稿の(2)以降に記載します。

2.本当に必要な資料

「本当に」必要だったと感じた資料は以下のものです。

  • 『要件事実の考え方と実務』(第4版) 加藤新太郎編著(要件事実に関する書籍なら何でも可)
  • 民法の書籍(何でも可)
  • 条文集(主に、民法、民事訴訟法、民事執行法、民事保全法、民事訴訟規則、司法書士法)

色々なブログをみても、民法の書籍について書いている人がほぼいなかったのですが、私は必要と考えていますので、4.で後述します。

条文については、意外なことに、特に研修の序盤でそもそも持参してきていない受講者がたまに見られたのですが、法律家の研修ですので当然準備すべきだと思います(実際、これは何法の何条に書いてありますか?と当てられて聞かれます)。

その他、司法書士試験用の基本テキスト(民事訴訟法、司法書士法など)も必要に応じ参照していました。

3.要件事実の書籍について

要件事実の書籍については、次の理由で、研修資料とは別に参照するものが必要と思われます。

研修では、第一回の講義までに、基礎講座と称するビデオ講義を視聴しておくことが求められていました。しかし、そこでは訴訟物、要件事実の定義と、その意義が説明されるのみでした。それを前提に、グループ研修では、「この事案の訴訟物と、要件事実は何か?」と指名されて質問されます。

しかし、おそらく、定義と意義を把握しているだけ(配布された教材を参照するだけ)では、試験用の答え(教官が求めている答え)を完璧に回答することはできないものと思います。

たとえば、「建物明渡請求権」であれば、「所有権に基づく目的物返還請求権としての建物明渡請求権」という「型」で回答するのが、試験用の答え(教官が求めている模範解答)です。しかし、研修用に配布される資料やビデオをみても、この答(=内容があっているだけでは厳密には不十分で、研修・考査的には、フレーズとして一致させること、すなわち一定の定型文が答えとされています)を導き出すことはできないと思われました。

この点で、ビデオ講義と、グループ研修等の各セッションの間を埋める部分が欠落しているので、受講者は、要件事実に関する書籍を自学自習して「型」を身に着ける必要があると感じました。

そして、研修の中盤から、研修外で自学自習している方は「型」どおりにきちんと答えてくるようになったと感じられました。私は参考書籍なしで臨んでいたので、なんで他の受講者がこのフレーズを自分で思いついて出せるのだろう・・・と疑問に思い、おそらく研修外の資料を参照しているからだろうと推測して、書籍を買う判断に至りました。

なぜこの「型」になるのかという点の説明やアカデミックなディスカッションが最初になく、いきなり当てられて答えさせられるので、こういうもの、と覚える(あるいは覚えてきている)ことを前提に研修が進みました。これは研修なので、当てられて答えられなくても、講師の解説を聞いて学習していけばそれでよいのですが、やはり受講者全員の前で答えられないのは恥ずかしいので、恥をかきたくない方は「型」を身に着ける必要があります。

4.民法の書籍について

必読図書は全て要りませんと記載しているブログはありますが、必要なものとして民法の書籍を挙げている方が殆どいません。しかし私は民法の書籍は研修中に必要だと感じました。

研修中、売買や建物賃貸借の事案に関する訴状を起案するグループワークのセッションがあります。私はこれらの起案にあたって民法の書籍を参照する必要性を感じていました。具体的には、例えば、以下の論点について民法の文献を確認する必要がありました。

  • 賃貸借契約における信頼関係破壊の法理の位置づけと機能(無催告解除の根拠としての)
  • 無断転貸をした場合の賃貸人と転貸人の関係
  • 無断転貸をした場合の不法行為に基づく損害賠償請求の根拠と位置付け
  • 売買の目的物が中古機械(代替可能性がないもの)だった場合の契約不適合責任に基づく追完請求の考え方

もっとも、これらはグループワーク(起案)に際して検討すべき論点の確認について必要だったので、その後の認定考査の準備(勉強)にあたって参照することはないと思います。購入することを検討する場合は、実際に簡裁代理業務を扱う予定がどの程度あるかも踏まえて、検討した方がよいでしょう。

私は、自宅の近くに市営の図書館があるので、そこの蔵書を随時借りながら対応していました。そのため、購入はしていません(実務上必要になったら購入する予定です)。まだ、債権法改正に対応している蔵書が少なかったので、少し困りました。

5.司法書士倫理の書籍について

司法書士倫理に関する問題を検討するための書籍として『司法書士 簡裁訴訟代理等関係業務の手引』を購入される方も多いようです。

私は購入しておらず内容をみていませんので、要不要のコメントは差し控えます。しかし、少なくとも、特別研修及び認定考査における司法書士倫理に関する問題を検討するにあたっては、司法書士法及び司法書士行為規範の条文を確認すれば十分検討は可能です。また、認定考査対策という意味では過去問の周回で対応できますので、必須ではないと思われました。

6.受験予備校講師が執筆している書籍について

こちらも、私は購入しておらずまた内容をみていませんので、要不要のコメントは差し控えます。しかし、少なくとも私は実務家としてこの研修に参加していますし、個人的には、実務家(少なくとも司法書士のライセンスをきちんと取得できている方)が、司法書士試験と同じアプローチで、受験予備校に頼りながら、単純に認定考査対策のみに主眼を置いた書籍を利用する、ということにはとても違和感があります(もうその段階は終わっているはず)。そのため、受験予備校又は受験予備校講師が執筆又は発行している教材は使用していません。

(2023.12.15追記)
私は、受験予備校講師が執筆している書籍を使用しなくても、認定考査に無事合格できました。しかし、考査が終わった直後に感じたことは、当然ながら考査は試験だということです。実務本や学者本だけを読んで司法書士試験に臨むことが効率が悪いのと同様、そのようなアプローチで考査に臨むことは非効率であるようにも思われました。その意味で、受験予備校講師が、考査対策に特化して書いた本を考査のために使用することは、効率的といえるのかもしれません。(もっとも、中身は見ておりませんので、これ以上踏み込んだコメントは差し控えます。)

司法書士・行政書士 司栗事務所代表。日本企業やグローバル企業からの依頼による会社・法人の設立、株主総会、M&A、グループ内再編、独禁法関連、特定目的会社を利用した資産の流動化、金融商品取引業、投資法人(REIT)等に係る登記手続や官公署への届出事務等に多数関与した経験を有する。
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