取締役会議事録の記名押印を電子署名に代えることに関する論点整理

企業のDX化やデジタル化が進む中、紙と押印のプロセスについても電子署名に代える動きが広がっています。

本稿では、取締役会議事録を電子署名で行う場合の会社法上、登記手続上の留意点等について整理を試みます。本稿は随時更新いたします(最終更新:2023/3/28)。

会社法上の整理

会社法上、取締役会の議事録については会社法第369条第3項及び第4項で次のように規定されています。

会社法

(取締役会の決議)

第三百六十九条 

 取締役会の議事については、法務省令で定めるところにより、議事録を作成し、議事録が書面をもって作成されているときは、出席した取締役及び監査役は、これに署名し、又は記名押印しなければならない。

 前項の議事録が電磁的記録をもって作成されている場合における当該電磁的記録に記録された事項については、法務省令で定める署名又は記名押印に代わる措置をとらなければならない。

第4項の「法務省令で定める署名又は記名押印に代わる措置」は、電子署名とされています(会社法施行規則第225条)ので、結論としては取締役会議事録を電磁的記録(データ)で作成して電子署名を付したものは有効な議事録として扱うことが可能です。

なお、ここでいう電子署名は会社法施行規則第225条第2項で定義されており、①本人が作成したことが確認可能なものであること、及び、②改変がないことを確認可能なものであること、の二要件を満たすものであるとされています。なお、これは電子署名法(電子署名及び認証業務に関する法律)第2条第1項の規定ぶりと同一ですので、電子署名法上のいわゆる2条電子署名の定義と一致しています。

会社法施行規則

(電子署名)

第二百二十五条

 前項に規定する「電子署名」とは、電磁的記録に記録することができる情報について行われる措置であって、次の要件のいずれにも該当するものをいう。

 当該情報が当該措置を行った者の作成に係るものであることを示すためのものであること。
 当該情報について改変が行われていないかどうかを確認することができるものであること。

商業登記法との関係

(1)総論

商業登記の関係で添付が求められる取締役会議事録においては、一定の場合に実印が求められる場面があります(紙の場合)。
電磁的記録をもって作成されている議事録についても、たとえ会社法上有効に成立していたとしても、登記手続との関係で、印鑑でいうところの実印に相当する厳格な本人確認を経た電子署名が付されていることが必要になる場合がありますので、注意が必要です。

概していえば、紙の議事録の場合に実印を押印すべきだったもの(典型例としては代表取締役選定に係る取締役会議事録)は、電磁的記録の場合も、厳格な本人確認が求められ、証明力の高い電子署名を付す必要がある、つまりいわゆるクラウド型電子署名の利用ができない場合もあります。

(2)代表取締役選定に係る取締役会議事録についての対応

登記手続上、代表取締役選定決議をした取締役会議事録については、実印相当の電子署名を利用する必要があり、いわゆるクラウド型電子署名の利用ができない場合があります。

この場合、もし登記所に印鑑を届け出ている代表取締役等がいる場合は、その者が商業登記電子署名等をする必要があります。

登記所に印鑑を届け出ている代表取締役等が取締役会に出席していない場合は、出席役員が公的個人認証サービス電子署名又は特定認証業務電子署名で電子署名をする必要があります。

(3)使用可能な電子証明書の種類

具体的に使用可能な電子証明書の種類は法務省のウェブサイトに掲載されています。上に記載した整理で、使用可能な電子証明書が分かれていることが確認できます。
すなわち、紙の場合に実印が求められていたものは。氏名及び住所を確認することができる証明書が要求され、紙の場合に認印で足りたものは、いわゆる事業者型・立会人型の電子署名で足りるといった形になっています。

商業・法人登記のオンライン申請について
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji60.html#05

(4)出席役員が各々別々の議事録にデータに電子署名しても登記上問題ないか

結論としては不可となります。

紙の場合でも、登記申請の添付書面となる取締役会議事録について、取締役会議事録を数通作成し、各議事録に一部の取締役が記名押印し、全ての議事録を合わせて全取締役の記名押印が揃う方法による議事録の作成は適法でないとされています(昭和 36 年5月1日民事四発第 81号民事局第四課長事務代理回答)。この考え方は電子署名の場合でも同様と考えられるためです。

(5)タイムスタンプは必要か

会社法施行規則上、また登記手続上は、タイムスタンプを付すことまでは求められていません。
ただし、内部管理上、改ざん防止の観点から、必要に応じてタイムスタンプを付すことは検討すべきかもしれません。

<電子証明書とタイムスタンプの違い>

電子証明書タイムスタンプ
信頼できる第三者(認証局)が間違いなく本人であることを電子的に証明するものある時刻にその電子データが存在していたことと、それ以降改ざんされていないことを証明するもの

まとめ

紙の議事録の場合、会社法上有効な議事録がそのまま登記に使用できない場合があるため注意を要しましたが、電磁的記録をもって作成された議事録の場合でもその点に変わりはありません。担当者印、会社認印、会社実印と、印鑑にもランクがあるように、電子証明書についても証拠力の関係でランクがあることを理解し、適切に管理・利用することが必要です。

司法書士・行政書士 司栗事務所代表。日本企業やグローバル企業からの依頼による会社・法人の設立、株主総会、M&A、グループ内再編、独禁法関連、特定目的会社を利用した資産の流動化、金融商品取引業、投資法人(REIT)等に係る登記手続や官公署への届出事務等に多数関与した経験を有する。
PAGE TOP