議案や別紙資料に企業秘密が記載された議事録であっても、登記申請書に添付しなくてはならないのか

商業登記の添付書類として例えば取締役会議事録等が要求される場合、登記とは関係がないビジネス上の情報、特に、一般に公開したくない情報が記載された部分であっても、法務局に提出しなければならないのでしょうか。この点は、特に上場企業等の登記申請においてご相談いただくことがあります。

本稿では、そのような問題に関する対応策等について、整理を試みます。
なお、本稿には、実務上広く許容されている取扱に対して疑問視する意見が含まれていますが、当該意見については筆者の私見であることをお断りしておきます。

1.原本還付の一般原則

登記の申請人は、申請書に添付した書類の還付を請求することができます(商業登記規則第49条第1項)。そして、書類の還付を請求するには、登記の申請書に当該書類と相違がない旨を記載した謄本をも添付しなければなりません(同条第2項)。

すなわち、法務局に提出する際に、原本とともに、いわゆる原本還付文言を付したコピーをあわせて提出すれば、原本を法務局に提出する必要はありません。

ただし、登記申請の際、原本とコピーの内容が一致しているか、申請書の提出時に窓口で照合する作業が行われます。よって、コピーとともに原本の全文も窓口に持参し、照合のために法務局の担当者に見せる必要はあります。

2.原本還付をする場合の論点

(1)登記に不必要な部分の提出は省略できるか

この点については、先例により、申請書に添付すべき議事録の謄本に代え、その登記の申請に不必要な部分の謄写を省略した抄本を添付した場合でも、便宜原本還付が認められるとされています(昭和52年11月4日民四第5546号回答)。

つまり、議事録の別紙として、登記に無関係なビジネス上の資料等が添付されている場合は、当該資料等のページのコピーの作成は省略して問題ありません。

(2)登記申請に関係ない部分を黒塗りしたコピーを提出してもよいか

議事録等において、同じページの中に、登記に関係する部分とそうでない部分が混在している場合、登記に関係しない部分を黒塗りしたコピーを提出して原本還付を受けることは実務上可能です。

ただし、上記1.に記載したとおり、原本還付を受けるにあたっては、原本とコピーの照合が申請窓口で行われます。よって、①黒塗りしたコピーと、②黒塗りしていない状態の原本を、両方持参し、黒塗りしていない部分も窓口担当者に一度見せる必要があります。

もっとも、窓口での照合作業は、通常、同一性をざっと確認する程度にとどまります。そのため、黒塗りしていない部分を一瞬法務局担当者に見せたからといって、それが重大な企業機密漏洩につながる可能性は事実上低いと思われます。

(3)正規の議事録とは別に、登記専用の要約版議事録を作成して登記申請に使用して問題ないか

まず、実務上は、特に上場会社の登記手続において、ビジネス的な議案はあたかも最初から存在していなかったような体裁とし、登記専用の要約版議事録を作成して提出する取扱が行われていることがあります。司法書士もそのようにアドバイスしていることがあります。それは事実です。ただし、筆者はこの取扱は次の理由から疑義があると考えています。

①認められているのは謄写の省略に過ぎないこと

上記2.(1)において記載したとおり、登記先例で認められているのは、「登記の申請に不必要な部分の謄写を省略」することにすぎません。謄写を省略するのではなく、原本自体を登記用に書き換えてしまうことまでが認められているとは考え難いように思います。

②要約版は会社法上の議事録として認められない可能性があること

株主総会議事録や取締役会議事録は「議事の経過の要領及びその結果」を記載する必要があります(会社法施行規則第72条第3項第2号、第101条第3項第4号)。

登記手続に関係しない部分を省略してしまっている議事録は、「議事の経過の要領及びその結果」を適切に記載した議事録であるとは認められず、少なくとも会社法上は適法に作成された議事録とは言えないと評価されるリスクがあるように思われます。

③議事録に複数のバージョンが存在することは本来的ではないこと

一の会議に対応する議事録は一つであり、複数のバージョンが存在しないのが一般的・本来的であるはずです。登記手続に要約版を提出する場合、本来あるべき正規の議事録が別に存在しているがそれを提出していない(本来提出すべき議事録を提出していない)と評価されるリスクがあるように思われます。

④不動産登記法上の登記原因証明情報とは異なり、商業登記法上は「議事録」が要求されていること

不動産登記法上は、権利に関する登記を申請する場合には、申請人は、法令に別段の定めがある場合を除き、その申請情報と併せて登記原因を証する情報を提供しなければならないとされています(不動産登記法第61条)。すなわち、売買であれば、売買契約書そのものではなくても、登記申請に必要な情報を要約して記載した情報(書面)を別途作成して、登記申請の添付書類とすることは認められており、実務上も広くそのような取扱がなされています。

これに対し、商業登記法上、議事録を添付すべき場面で添付すべきは「議事録」であり、「登記原因を証する情報」とはなっていません(商業登記法第46条第2項参照)。

正規版の議事録とは別に要約版を作成して提出する実務は、おそらく、上記の不動産登記法上の規定及び実務をもとに、司法書士がアドバイスして広まっていたのではないかと推測しています。しかし、上記③のとおり一の会議に対応する議事録は本来一つしかないはずで、条文の規定ぶりからも、不動産登記と同様の思想に基づいて、登記原因を要約した議事録を作成して提出することは許容されていないように思われます。仮に許容されているのであれば、商業登記法第46条第2項中の「議事録」との規定は「株主総会(取締役会)の決議があったことを証する情報」などとなっているはずです。

⑤法務局は正規版か要約版かを判断できない

登記の申請人が、要約版の議事録を提出したとして、申請された登記を審査する法務局担当者は、それが正規の議事録なのかそうでないのかを判断する方法がありません。

よって、正規の議事録でない議事録が提出されたとしても、実際には問題なく登記手続はできてしまいます。それゆえ、要約版の議事録を提出しても、実際には特に問題とされてきていなかったのだと考えられます。しかし、それをもって法務局が要約版の作成を認めているということとは本来イコールではないと思われます。

3.まとめと対応策

登記申請に添付する議事録に、企業秘密を含む議題が含まれることが予想される場合、保守的な対応策ではありますが、会議を二回に分けることが考えられます。

例えば、10:00から取締役会を開催するのであれば、10:00~10:15に登記事項である代表取締役選定を決議し、一度閉会をし、10:15~から再度開会しビジネス上必要な残りの議案を決議する、という対応が考えられます。

この場合、登記申請に提出する議事録は前半の代表取締役選定に関する議事録のみとなり、10:15以降に行われた議案が記載された議事録は、そもそも原本も含め法務局に持参する必要はなくなります。

もっとも、登記申請を意識して、同じメンバーで連続的に行われ、かつ実体として一つの会議である会議をあえて二回に分けて開催する、との取扱は、それはそれで、一般のビジネス的な感覚からすると迂遠であり違和感があると考える方もいらっしゃるとは思います。

また、会議を二回に分けなくても、上記2.(1)及び(2)に記載した方策で対応は可能です。決議の順番や、議事録のページ構成を工夫することを検討しても良いかもしれません(機密情報はすべて別紙資料に記載することとし、別紙全体のコピーを省略すれば足りる構成にするなど)。
この点は、専門家とも相談いただいたうえで、会議の性質、また登記上や法務上のリスクを勘案しながら、対応を検討していただくことになろうかと思います。

司法書士・行政書士 司栗事務所代表。日本企業やグローバル企業からの依頼による会社・法人の設立、株主総会、M&A、グループ内再編、独禁法関連、特定目的会社を利用した資産の流動化、金融商品取引業、投資法人(REIT)等に係る登記手続や官公署への届出事務等に多数関与した経験を有する。

1件のコメント

コメントはできません。

PAGE TOP