会社法では、会社の合併等の場面において、一定の場合に株主総会決議等を不要とする旨の定めを置いています(簡易組織再編、略式組織再編)。
本稿では、簡易組織再編、とりわけ簡易合併の適用を考えるにあたって実務上問題になる点につき、整理することを試みます。
1.簡易合併とは
簡易合併を行うための要件は会社法第796条第2項に規定されており、概して言えば、存続会社が交付する組織再編対価の額が、当該会社の純資産額の5分の1以下(定款で引き下げ可)である場合、株主総会の決議が不要になるものとされています。
2.例外
ただし、次に掲げる場合には、いわゆる差損が発生するケースに該当し、株主総会の決議を省略することはできないとされています(簡略化して記載しています)。
- 承継債務額が承継資産額を超える場合(会社法第795条第2項第1号)
- 対価として交付する金銭等(存続会社の株式等は除く)の帳簿価額が承継資産額から承継債務額を控除して得た額を超える場合(会社法第795条第2項第2号)
なお、上記のほか、非公開会社である存続会社が、組織再編対価として譲渡制限株式を交付する場合(会社法第796条第1項但書)、一定数の株主が反対する旨の通知をした場合(会社法第796条第3項)も、株主総会の決議が省略できないケースに該当します。
3.簡易合併該当性の検討は難解
消滅会社が債務超過である会社であるような場合には、差損の発生有無について注意するのですが、資産状況が健全である会社であっても、例えば親子会社同士の合併の場合には抱き合わせ株式の消滅による差損などが発生し、簡易合併が行えない場合がありますので注意が必要と考えられます。抱き合わせ差損や会計に関する詳細については、会計専門家等の解説に委ねますので、ここでは割愛させていただきます。
筆者も実際の案件で、弁護士とともに会社の決算書を拝見しながら検討をしたことがありますが、検討については会計の知識がなくては判断しかねる論点も多々あり、法律専門家だけでなく会計の専門家とも連携して検討する必要があると考えます。
4.非上場会社同士の合併では株主総会開催が無難
簡易合併のメリットは、株主総会の決議が不要になることですので、上場会社等、総会招集に手間やコストがかかる場合には検討する意義が大きいと考えられます。他方で、株主総会の招集が容易な非上場会社であれば、メリットはそれほどないと言えますので、簡易合併の該当性を無理に検討するよりは株主総会の決議を経る方が手続きがスムーズに運ぶ場合も多いと言えます。
5.登記手続の観点から注意すべき点
簡易合併に該当する場合には、登記手続上、簡易合併に該当することを証する書面の添付が必要となります。様式のサンプルは法務省のウェブサイトでも公開されていますが、合併対価の額や資本金の額等、機械的に数字を入れて完成させるタイプの様式となっており、上記2.の例外要件に該当しないことを証する内容が含まれていません。従って、例外要件のチェックを失念し、簡易合併に該当しないはずの合併を簡易合併として登記してしまうようなミスの発生も懸念されますので、注意が必要と考えられます。