(2023.10.12:一部更新しました。)
合同会社においては、登記上、業務執行社員、代表社員、(場合によっては)職務執行者、と、役員のような肩書の役職が3つあるため、たまに、代表者の表示方法に混乱がみられる例を見かけることがあります。
本稿では、新たに設立した合同会社が第三者と契約を締結する場合や、サービスの申込をする場合等に、代表者の表示をどのようにすればよいかにつき、解説します。
1.結論
先に結論を表にまとめました。どちらのタイプに当てはまるかは、登記情報(登記簿謄本)を見れば確認できます。
望ましい表示方法 | |
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職務執行者が登記されていない場合 | 〇〇合同会社 代表社員 〇〇 |
職務執行者が登記されている場合 | 〇〇合同会社 代表社員 〇〇社 職務執行者 〇〇 (※下記はあまり一般的ではありません。) 〇〇合同会社 職務執行者 〇〇 |
以下、解説します。
2.各役職の位置づけ
(1)業務執行社員
会社法上は、業務を執行する社員(以下、「業務執行社員」といいます。)は、合同会社を代表するものとされています(会社法第599条第1項)。
なお、業務執行する社員が二人以上ある場合には、業務を執行する社員は、各自、合同会社を代表するものとされています(同条第2項)。ただし、代表社員がいる場合には業務執行社員は代表権はありません(同条第3項)。
つまり、業務執行社員は、原則として全員に代表権があるが、代表社員がいれば代表者ではないということです。業務執行社員は、株式会社でいうところの(ヒラの)取締役のようなイメージの役職になります。
(2)代表社員
業務執行社員の中から代表社員を定めた場合は、業務執行社員ではなく、代表社員が合同会社を代表します(会社法第599条第3項)。
つまり、代表社員は、株式会社でいうところの代表取締役のようなイメージの役職になります。
なお、代表社員は、登記情報(登記簿)上は、代表社員としても、業務執行社員としても登記されます(会社法第914条第6号、第7号)。
(3)職務執行者
職務執行者は、業務執行社員(又は代表社員)が法人である場合に、業務執行社員(代表社員)の「職務を行うべき者」です(会社法第598条第1項)。
株式会社の取締役や代表取締役は必ず人である必要があります。これに対し、合同会社は、株式会社と異なり、会社や法人が代表者や業務執行者になることができます(少し不思議と思われる方もいるかもしれません)。
そこで、代表者や業務執行者が会社や法人の場合、その会社・法人のために実際に動くことができる「者」を選任することが求められています。
筆者は、職務執行者は、代表社員のために「ハンコを押す担当者」のイメージでとらえています。会社や法人はあくまで団体を示す概念で、物理的に合同会社のためにハンコを押すことができません。そこで、実際にハンコを押す人(担当者)が必要になるため、会社法が選任を求めているのだと理解しています。
3.〇〇合同会社 職務執行者〇〇の表示は?
契約書等の捺印欄で、「〇〇合同会社 職務執行者〇〇」とする表示を見かけることがあります。この表記は、法的に大きな問題はないものの、あまり一般的ではないと思われます。
なぜなら、前記2.(2)及び(3)で解説したとおり、合同会社の代表者は代表社員だからです。職務執行者は、厳密には代表権はなく、代表社員のためにハンコを押す権限がある人にすぎません。
代表社員の表示を欠いた契約書は、株式会社で言えば、社長名の表示がなく担当者名で印鑑を押してある契約書に近い感じかもしれません(「〇〇会社 営業部員△△ 印」のようなイメージ)。見積書や請求書等では問題ないこともありますが、少なくとも重要な契約書においては代表社員の表示はするべきでしょう。具体的には以下のようにするのが望ましいと考えられます。
〇〇合同会社
代表社員 〇〇社
職務執行者 〇〇
4.相手方側の対応
「〇〇合同会社 職務執行者〇〇」のように、代表社員の表示を欠いた契約書や申込書が示された場合、それを受け取った相手方としては、念のため、以下の点を確認すべきでしょう。
- 「職務執行者」とあるのは「代表社員」の誤記ではないかを相手方に確認する 又は
- 登記情報(登記簿謄本)を確認し、代表社員が誰なのか確認する
代表権がない者が締結した契約は、原則として無効になります(その者が代表者であるかのように装っていた場合等、一定の場合には有効に成立する場合もありますが)ので、押印者に代表権又は押印権限があるのかを確認しておくことが望ましいと言えます。
5.おわりに
当事務所では、合同会社に関する会社法上の手続きのサポートや、登記手続を豊富に取扱っています。本件の事例に限らず、合同会社に関する手続きについてご相談事項がございましたら、どうぞお気軽にご相談ください。