ファンド関連ビジネスと適格機関投資家等特例業務(QII特例業務)の届出

本稿では、金融商品取引法(以下「金商法」といいます。)に関連して、ファンド関連の規制と、適格機関投資家等特例業務(いわゆる「QII特例」と呼ばれるもの)の届出に関する実務上の留意点を簡潔に整理することを試みます。

(R5.9.12更新)

1.ファンド関連ビジネスに関する規制

いわゆるファンド持分の自己募集や集団投資スキームの自己運用は、金商法の規制対象となっています。原則として、自己募集を行う者については、第二種金融商品取引業の登録を、また自己運用を行う者については、投資運用業の登録を、予め関東財務局に対して行う必要があります。

2.適格機関投資家等特例業務とは

一定の要件を満たす集団投資スキーム持分の私募に係る業務や、自己運用に係る業務は、適格機関投資家等特例業務として、金融商品取引業の登録義務の除外対象となっています(金商法第63条参照)。

上記の一定の要件を具体的に記載すると次のとおりです。(金商法施行令第17条の12参照)
①出資者の全てが適格機関投資家である場合、又は
②出資者に1人以上の適格機関投資家と49人以下の投資判断能力を有すると見込まれる一定の者が含まれる場合

登録義務の除外の適用を受けようとする場合は、適格機関投資家等特例業務の届出を、財務局等に対して行わなければなりません(金商法第63条第2項)。

3.適格機関投資家等特例業務の届出を行うことによる効果

適格機関投資家等特例業務の届出を行うことで、原則として、金融商品取引業者に適用される行為規制は及ばなくなります(金商法第63条参照)。

ただし、一部の行為規制については金融商品取引業者と同様に規制が及ぶことになります(金商法第63条第11項)。適格機関投資家等特例業務を行う場合であっても適用のある行為規制を具体的に列挙すると下記のとおりです。

  • 特定投資家への告知義務等 (金商法第34条~第34条の5)
  • 顧客に対する誠実義務 (同法第36条第1項)
  • 名義貸しの禁止 (同法第36条の3)
  • 広告等の規制 (同法第37条)
  • 契約締結前の書面の交付 (同法第37条の3)
  • 契約締結時等の書面の交付 (同法第37条の4)
  • 禁止行為(虚偽告知、不当な勧誘等) (同法第38条)
  • 損失補塡等の禁止 (同法第39条)
  • 適合性の原則等 (同法第40条)
  • 分別管理が確保されていない場合の売買等の禁止 (同法第40条の3)
  • 金銭の流用が行われている場合の募集等の禁止 (第40条の3の2)
  • 権利者に対する義務、善管注意義務(第42条)
  • 投資運用業に関する禁止行為(第42条の2)
  • 分別管理(第42条の4)
  • 運用報告書の交付(第42条の7)
  • 暗号資産の性質に関する説明義務等(第43条の6)
  • 勧誘の相手方が特定投資家である場合に関する適用除外(第45条) など

4.適格機関投資家等特例業務の届出事項

適格機関投資家等特例業務の届出事項は金商法第63条第2項に列挙されており、具体的には下記のとおりです。

  • 商号、名称又は氏名
  • 法人であるときは、資本金の額又は出資の総額
  • 法人であるときは、役員の氏名又は名称
  • 政令で定める使用人があるときは、その者の氏名
  • 業務の種別
  • 主たる営業所又は事務所の名称及び所在地
  • 適格機関投資家等特例業務を行う営業所又は事務所の名称及び所在地
  • 他に事業を行つているときは、その事業の種類
  • その他内閣府令で定める事項(ホームページアドレスや、ファンド名称,種別,内容など。詳細は金融商品取引業等に関する内閣府令(以下「業府令」といいます。)238条参照)

5.適格機関投資家等特例業務の届出の提出先

金商法第63条第2項では内閣総理大臣に対して提出することとされていますが、内閣府令の規定により、提出先は管轄財務局等になります(業府令第236条参照)。

6.添付書類

金商法第63条第3項及び業府令第238条の2に規定されていますが、関東財務局のウェブサイト等にも詳しい案内があります。

「適格機関投資家の全てが投資事業有限責任組合である場合に提出する書面」や、「密接関係者及び知識経験を有する者からの出資金総額を証する書面」については、投資引受先が確定しないなどの理由で即時に提出ができない場合もあるかと思いますが、やむを得ない事由があるときは、届出後遅滞なく提出すれば足りるものとされています(業府令第238条の2)。実務上も、確定後遅滞なく提出することができれば、届出から数か月後の提出でも認められる場合が多いです。

7.届出後の義務

(1)公衆縦覧書面作成

届出者は、届出後遅滞なく、いわゆる公衆縦覧書面を作成し、これを主たる営業所等に備え置くか、インターネットの利用その他の方法により公表しなければならないとされています。

公衆縦覧書面の具体的な様式は、業府令別紙様式第二十号の二として定められています。フォーマットは、本稿執筆時現在、金融庁のウェブサイト等では公開されていない模様です。

2023.9.12追記:下記で公開されていることを確認しました。
https://www.fsa.go.jp/news/27/syouken/20160203-2.html
英語版もあります。
https://lfb.mof.go.jp/kantou/kinyuu/kinshotorihou/pagekthp032000272.html

(2)事業報告書作成義務

届出者は、事業年度ごとに事業報告書を作成し、毎事業年度経過後3か月以内に提出する必要があります(金商法第63条の4第2項)。

様式は関東財務局のウェブサイトで公開されていますが、比較的大部であり、記載すべき情報の収集に一定の時間を要する場合があります。また、法務担当者で記載できる状況には限界があり、適宜経理担当者等とも連携する必要があります。事業年度終了後にアラートを設定する等して、余裕をもって準備をすることをお勧めいたします。

(3) 説明書類作成義務

事業年度ごとに説明書類を作成し、毎事業年度経過後4か月以内に、主たる営業所・事務所等への備え置きや、自社等のウェブサイトへの掲載等を行う必要があります。(※但し外国業者については、縦覧期限の延長の承認制度があります。)

(4) 変更届出

届出内容に変更がある場合は、届出事由が生じてから遅滞なく変更届出書の提出が必要です。「遅滞なく」とありますが、当局としては、概ね1か月以内の提出をお願いしているようです。

8.まとめ

金商法は行為規制が複雑であり、弁護士や行政書士の全員がこれに精通しているわけではありません。従って、この分野にしっかりと精通した専門家とともに手続きを進めていくことが肝要です。

なお、当事務所では、金融商品取引業者でも勤務経験がある司法書士・行政書士によるサポートを提供可能です。どうぞご遠慮なくご相談ください。

9.参考となるサイト等

関東財務局:適格機関投資家等特例業務関係(届出等)
https://lfb.mof.go.jp/kantou/kinyuu/kinshotorihou/tokurei.htm

関東財務局:特例業務の新規届出
https://lfb.mof.go.jp/kantou/rizai/pagekthp032000815.html

関東財務局:Special Business Activities for Qualified Institutional Investors
https://lfb.mof.go.jp/kantou/kinyuu/kinshotorihou/pagekthp032000272.html

金融庁:適格機関投資家等特例業務、特例投資運用業務に関する法改正に伴う届出方法の変更について
https://www.fsa.go.jp/news/27/syouken/20160203-2.html

10.おわりに

当事務所では、適格機関投資家等特例業務をはじめ、各種金融商品取引業登録、変更届出等の届出書作成等を行っています。手続面のサポートを希望される方はどうぞお気軽にお問い合わせください。

司法書士・行政書士 司栗事務所代表。日本企業やグローバル企業からの依頼による会社・法人の設立、株主総会、M&A、グループ内再編、独禁法関連、特定目的会社を利用した資産の流動化、金融商品取引業、投資法人(REIT)等に係る登記手続や官公署への届出事務等に多数関与した経験を有する。
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