論考・記事

定款変更の効力発生日はいつまで先にできる?
2024.05.16

効力発生日を指定するいわゆる条件/期限付決議は、「法律の規定,趣旨または条理に反しない限り,原則として許される」との判例(最判昭37・3・8民集16巻3号473頁)があります。これを根拠に、効力発生日を将来の日に設定すること自体は可能とされています。

ただ、具体的にいつまで先であれば許されるか、については、個々の事情に左右されるところもあり、少々難しい問題といえます。

(1)登記手続上の制限

この点について、法務局の電話相談室などで相談をすると、法務局が一般的に許容しているのは1~3か月程度先まで、との回答を得られることがあります。

もっとも、これは小規模な会社、すなわち株主総会が比較的機動的に開催できる会社を対象に、特に事情がなければあまり先の日付を設定するのは(条理等に反する可能性があるので)よくないのではないですか、という趣旨でのアドバイスに過ぎないと思われます。法令上は、定款変更日を将来の日に定める場合の期間制限等はありません。

(2)実例

上場している大企業の事例で定款変更効力発生日を半年より先に設定していた実例としては、旧新生銀行(現:SBI新生銀行)が次の内容の附則を定款に加筆した例があります。

(第3条の変更の効力発生日)
第42条 平成22年3月31日終了する事業年度に関する定時株主総会において決議された第3条(本店の所在地)の変更は、平成23年1月31日までに開催される取締役会において決定する本店移転日をもって効力を生じるものとし、当該本店移転日の前日を経過するまでは、なお当該変更前の定款第3条の定めるところによる。なお、本条は、本店移転日経過後、これを削除する。
<変更前定款第3条>
(本店の所在地)
第3条 当銀行は、本店を東京都千代田区に置く。

https://corp.sbishinseibank.co.jp/ja/ir/stock/shareholdersmtg/archive2/main/010/teaserItems3/02/linkList/00/link/reference100602.pdf

登記手続上は、大企業かそうでないかで、期間に関するルールが違うということはありませんので、単純に期間の長短についてのみで登記手続上問題になることはなさそうです。

(3)まとめ

以上から、次のことがいえます。

・定款変更の日をいつまで先にできるかについて条理に反しない範囲であれば理論上制限はない。

・非上場企業(すなわち株主総会が比較的機動的に開催できる会社)の場合は数か月先程度、株主が多数存在し株主総会を機動的に開催できない上場大企業の場合であっても半年~1年先程度まで、というのが実務上の目安と言えるように思われる。