論考・記事

取締役会を置いていない会社における管轄外本店移転手続きの省力化
2023.11.09

いわゆる一人会社をはじめとする取締役会非設置会社における、法務局管轄外の地域へ本店移転する手続(「管轄外本店移転」)について、実務的な処理を中心に解説します。

原則として必要となる決議・決定の内容

管轄外本店移転については、原則として以下の2つの決議をする必要があります。

1.定款変更の決議

例えば千代田区から台東区への移転の場合、定款中「当会社の本店は、千代田区に置く。」等とされている部分を、「当会社の本店は、台東区に置く。」のように変更します。定款変更には株主総会の特別決議が必要です。

2.具体的な本店所在場所の決議

番地やビル名を含めた具体的な新本店所在地場所については、原則として、株主総会ではなく、業務執行決定機関である取締役会で決定します。取締役会が設置されていない会社の場合は、原則として、取締役の過半数で決定をします。

必要書類の省力化について

いわゆる1人会社のように、取締役会を設置していない会社(取締役会非設置会社)においては、少しだけ決議や書類の省力化が可能です。

1.株主総会でまとめて決議

具体的には、上記の、2.具体的な本店所在場所の決議を、1.の定款変更とあわせて株主総会で決議し、その旨を議事録に記載することができます。

取締役会非設置会社の株主総会は、「株主総会は、この法律に規定する事項及び株式会社の組織、運営、管理その他株式会社に関する一切の事項について決議をすることができる。」(会社法295条1項)とされており、決議できる内容に制限がありません。そのため、取締役会非設置会社においては、1.定款変更及び2.具体的な本店所在場所決定を、株主総会で一度に行うことも可能です。

議案の例は下記のとおりです。

第1号議案   定款一部変更の件

議長は、本店の所在地に関する規定である当会社の定款第3条を下記のとおり変更したい旨を説明した。議長が賛否を議場に諮ったところ、出席株主は満場異議なくこれを承認可決した。

(本店の所在地)

第3条 当会社は、本店を東京都目黒区に置く。

第2号議案   本店移転の件

議長は、当会社の本店を下記のとおり移転したい旨説明した。議長が賛否を議場に諮ったところ、出席株主は満場異議なくこれを承認可決した。

本店移転先:東京都目黒区〇〇一丁目〇番〇号

移転の日:2023年〇〇月〇〇日

なお、取締役会設置会社については、「前項の規定にかかわらず、取締役会設置会社においては、株主総会は、この法律に規定する事項及び定款で定めた事項に限り、決議をすることができる。」(同条2項)とされておりますので、具体的な本店所在場所については業務執行決定として取締役会で決議する必要があります。つまり、取締役会がある会社の場合、具体的な本店所在場所の決定は、株主総会ではできないと考えられますので、注意が必要です(但し、定款の本店所在地の規定を、区だけでなく具体的な番地までを記載する内容に変更をした場合はこの限りではありません)。

2.招集手続の省略

株主総会は、株主全員の同意があるときは、招集手続を省略できます(会社法300条)。これを利用することで、招集関係の書面作成を省略できます(もともと書面化は任意ではありますが)。

以上を表にすると次のようになります。

原則省力化後
・株主総会招集に係る取締役決定書
(作成は任意)
[→省略]
・株主総会招集通知
(取締役会設置会社の場合、原則として作成は任意)
[→省略]
・株主総会議事録(定款変更を決議)・株主総会議事録
(定款変更及び本店所在場所を決議)
・取締役決定書(本店所在場所を決議)
(登記手続的には書面化が必要)
[→省略]

おわりに

登記関係の書籍においては、本店移転を決議する場合は、株主総会議事録及び取締役会議事録又は取締役決定書(取締役の過半数の決定を証する書面)の添付が必要、という原則論のみが記載されていることが多いようです。

上述のとおり取締役会非設置会社の場合には、株主総会で本店所在場所を決議することも可能です。その場合は、取締役決定書を添付しなくても問題なく登記は可能です。

例えば、株主と取締役が1名のみで、株主と取締役が同一人物という、いわゆる一人会社の場合等には、株主総会議事録(+代理人による申請の場合は委任状)のみで登記手続を行うことも検討すべきでしょう。会社の状況にあわせて、少しでも省力化して手続ができると良いと思います。