合同会社の設立時定款を電子定款とした場合の、代表社員就任承諾書の要否

合同会社の原始定款を電子定款の形式で作成していて、かつ定款上代表社員が明らかなケースの場合、設立登記時に代表社員の就任承諾書が必要か否かにつき、見解が分かれているようですので、私見を述べるとともに、本稿で整理を試みます。

税理士が執筆した合同会社設立に関する書籍(2023年刊行のもの)を読んでいたところ、定款を電子定款で作成した場合は、社員が直接定款に記名押印していないので、代表社員の就任承諾書が登記の際に必要と考えられる、と記載されており、これについて疑問に思ったこと(というか、「え・・・そうなの・・・??」と焦った)がきっかけで、検討しました。

1.代表社員の就任承諾書が必要とされることについての根拠条文

登記手続上、代表社員の選任に関する書面の添付が必要な根拠は商業登記法118条が準用する商業登記法93条とされていますが、就任承諾書を添付する根拠については、条文上は明らかではないように思われます。就任承諾書を添付すべきとの根拠は、おそらく下記の平成18年3月31日民商第782号通達(p.81、下記)なのではないかと思われます。

「(イ) 定款の定めに基づく社員の互選によって代表社員を定めたときは,その互選を証する書面及び代表社員の就任承諾書

2.就任承諾(書)が必要との立場の考え方

就任承諾書を必要と考える方が考える理由は下記のとおりのようです。

・定款上で誰が代表社員かを判断することができる場合で、かつ、各社員が定款に記名押印しているのであれば、代表社員の就任承諾の意思は明らかだから、代表社員の就任承諾書は不要。しかし、電子定款の場合、定款に電子署名をするのは社員以外の代理人(司法書士等)であることが多く、定款には社員が直接記名押印していない。

・そのため、代表社員の就任承諾の意思は、社員が直接捺印していない定款からは確認できない。よって、代表社員の就任承諾書が別途必要である。

3.就任承諾(書)が不要との立場の考え方

不要説の立場として、次のような見解を目にしました。

合同会社の代表社員と社員の関係については、取締役会非設置会社の取締役と代表取締役の関係と同一である。取締役会非設置会社の取締役は、各自会社を代表するので、取締役として就任した時点で、代表権があることを前提に就任承諾はしているのである。つまり、取締役会非設置会社が取締役の中から代表取締役を選定することは、いわば代表取締役として選ばれなかった取締役(平取締役)に対する代表権のはく奪であると整理されている。
これと同様、合同会社における代表社員の選定は、代表社員として選ばれなかった社員の代表権のはく奪という性質があるので、社員としての就任承諾があれば別途代表社員としての就任の承諾は不要である。

<私見>

(1)形式的理由

まず、平成18年3月31日民商第782号通達は、「定款の定めに基づく社員の互選によって代表社員を定めたときは」と、代表社員の就任承諾書の添付が要求される場面が限定されており、素直に読むと、定款で直接代表社員を定めた場合には、添付不要と解釈できるように思います。

(2)実質的理由

合同会社の社員と代表社員の関係は、取締役会非設置会社の代表取締役と取締役に近い関係、というのは個人的には少し説明として理解しづらいように感じました。

まず、社員1名のみの合同会社について検討します。この場合は、社員=代表社員ですので、そこに選定行為はありません。したがって就任承諾行為も不要、という整理で良いように思います。
また、株式会社では、所有者=株主(発起人)、経営者=取締役、というように所有と経営の分離がありますが、合同会社の場合は所有者も経営者も社員です。株式会社の場合、会社の所有者(発起人)になるのに就任承諾は不要です。合同会社でも、会社の所有者である社員になること自体に就任承諾は不要という説明ができると思います。

次に、社員複数名の中から定款の規定により代表社員を選定するケースで、定款は資格者代理人が作成した電子定款、の場合はどうでしょうか。

個人的には次のように考えています。定款は、社員全員が署名又は記名押印する必要がある(会社法第575条1項)関係で、仮に社員全員の同意をもとに定款が作成されていないのだとしたら、そもそもその定款は会社法上有効に成立している定款かどうか疑義が生じるように思われます。

つまり、資格者代理人が委任を受けて電子署名している(社員が直接定款に署名又は記名押印していない)から、社員の意思が定款では確認できないとの考えは、定款が社員の意思に基づいて作成されていないことを前提にしているので、やや違和感があります。実際のオペレーションとしても、資格者代理人であれば、社員の内容確認を経ないで勝手に定款を作ることはないと思います。

(3)登記実務上の取扱

東京法務局(本局及び台東出張所)では、社員1名のみ、電子定款(司法書士が電子署名)、定款で代表社員の氏名を記載、というケースについて、特に代表社員就任承諾書の提出をせずとも問題なく登記は完了しています(当事務所が2023年11月に申請した登記についての取扱)。

法務局によって取扱が異なる可能性も否定できませんが、少なくとも社員1名のみのケースでは、登記手続上は、代表社員の就任承諾書は不要と扱ってよいように思います。なお、社員複数の場合の法務局の取扱については残念ながら当事務所では確認ができておりませんので、ご注意ください。

4.まとめ

少なくとも社員1名の場合は、定款に代表社員の氏名が直接記載されていれば、電子定款であっても代表社員の就任承諾書を別途用意する必要はないと思われます。

社員複数の場合については、個人的には、作成する必要性に乏しいようにも思われますが、インターネット上の情報をみるに実際のところは議論があるところのようなので、念のため形式的に書類を作成しておく方が良いのかもしれません。

司法書士・行政書士 司栗事務所代表。日本企業やグローバル企業からの依頼による会社・法人の設立、株主総会、M&A、グループ内再編、独禁法関連、特定目的会社を利用した資産の流動化、金融商品取引業、投資法人(REIT)等に係る登記手続や官公署への届出事務等に多数関与した経験を有する。
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