論考・記事

弁護士法人の設立登記手続 ~添付書類や実務上の注意点~
2024.05.20

弁護士法人の設立登記手続について、具体的に解説した資料が少ないようなので、ご参考になればと存じます。

必要となる添付書類

  • 定款(公証役場で認証済のもの)
  • 社員となる弁護士の資格証明書(日本弁護士連合会が発行するもの)
  • 代表社員の選定を証する書面(定款又は総社員の同意書)
  • 合併の公告方法、電子公告関係事項について定めた決定書面等(定めがなければ不要)
  • 社員の決定書(主たる事務所の所在場所の決定に係るもの。※論点有。後述。)
  • 登記委任状(代理人による申請の場合)
  • 印鑑届書
  • 印鑑を届け出る法人代表者の実印の印鑑証明書

諸論点

(1) 定款に印紙の貼付は必要か

印紙税の課税対象は、株式会社、合名会社、合資会社、合同会社又は相互会社の設立のときに作成される定款の原本に限るため、弁護士法人の定款は紙の定款であっても貼付不要です。

(2) 定款認証の添付書類は何か

  • 定款(3部)
  • 社員の個人実印の印鑑証明書
  • 社員の弁護士の資格証明書(※公証役場によって、提示でよい場合もあれば、添付を求められる場合もあるようです。)
  • 代理人による認証の場合は委任状及び本人確認書類

(3) 社員となる弁護士の資格証明書とは何か

単に弁護士の資格があるという証明のみでも足りるように見えますが、実務上は、弁護士法人の社員の資格がある(欠格事由がない)という証明書を用いる例が多いことに注意する必要があります。
(弁護士法の一部を改正する法律等の施行に伴う法人登記事務の取扱いについて(平成一四・三・二五民商第七一七号通知) 第二3(1)参照)

(4) 社員となる弁護士の資格証明書はどのように入手すればよいか

以下の資料が参考になります。証明書様式も掲載されています。但し、最新の情報と、細かい取扱については、社員となる弁護士にて日本弁護士連合会に確認することをお勧めします。

弁護士法人の社員となる資格証明書等規則
https://www.nichibenren.or.jp/library/ja/jfba_info/rules/pdf/kisoku/kisoku_no_77_160719.pdf

(5) 社員の肩書はどのように登記されるか

具体的に解説した資料が少ないですが、いくつかの法人の登記例を見る限り、以下の振り合いとして運用されているようです。

<各自代表の場合>
住所
社員 氏名

<代表社員を定めた場合>
住所
社員 氏名

住所
代表社員 氏名

(6) 登記申請の際に注意すべき点はあるか (2023.7.29追記)

「目的等」の記載に関し、法人の目的等に小見出し(小タイトル)を入れるよう指導をしている法務局があります。この点、注意が必要と考えられます。

例:
「目的等」
目的及び業務
当法人は、・・・

法人の登記記録の目的区は、単なる「目的」ではなく「目的“等”」であり、各種法人の根拠法令に従って目的以外にも業務、事業又は設置する施設の名称等が登記事項となる場合がある(各種法人等登記規則第2条第1項及び第2項)。よって、法人の目的等を登記する際は、各根拠法令に従い、小見出しをつける。というのがその理由とされています。(参考:令和5年6月5日付 日本司法書士連合会「「商業登記申請における補正事例及び協力要請事項」の送付について」)

もっとも、小見出しがない場合でも登記が受理されている例はあり、実質的に大きな問題ではないように思われます(東京法務局管内)。

(7) 定款において法律事務所の所在地のみが定められている(町名・番地までも含めた具体的な所在場所が定められていない)場合、定款の業務執行の定めに従って、事務所の所在場所を決定したことを証する書面の添付は不要か

この論点は解説集などには記載が見つけられませんでしたが、添付を求められる場合があります。結論としては、総社員の決定書を作成し、登記申請にも添付できるようにしておくのが無難かもしれません。

私見では、次のような整理ではないかと考えております。

<実体法上の検討>
・業務執行方法につき、弁護士法上は、定款に別段の定めがなければ、各社員は、すべて業務を執行する権利を有し、義務を負う、としか規定されていない(弁護士法第30条の12)。
・弁護士法第30の30は、会社法の持分会社の規定を一部準用しているが、業務執行に関する会社法第590条(社員の過半数で決定する旨の規定)は準用していない。つまり、定款に定めがない場合のデフォルト・ルールは法定されていない。そのため、社員が定款又は法人の内部的な規則に基づき決定する必要がある。

<手続法上の検討>
組合等登記令上は、添付が必要な根拠が見当たらないように思われる。組合等登記令第25条によって商業登記法第93条が準用されていないためである。そのため、決定書面を添付する根拠規定がない。
そのため、代理人による申請の場合は、登記委任状等に、申請人が、具体的な所在場所を記載することで足りるのではないかとも思われる。

***

以上の考察をもとに法務局と相談しましたが、法務局からは、法務局の内部資料によれば、決定書面の添付が必要と解しているという回答を得ました。ただ、その内部資料中に示されていた、添付を必要とする根拠が組合等登記令16条2項だったようで、条文との対応関係があっていないように思われ、この点は担当者としても疑問とのことでしたが。

定款に業務執行の決定方法について定めがない場合の決定方法としては、総社員の決定が最も疑義がないので、社員が少数である場合など実務上の負担がなければ、念のため総社員の決定書を作成し、登記申請にも添付できるようにしておくのが安全かもしれません。

また、巷に出回っている弁護士法人の定款のテンプレートにおいては、弁護士法第30条の8第3項第7号の「業務の執行に関する事項」として、弁護士法第30条の12の内容が条文どおりに書いてあるだけというパターンがみられます。
おそらく、弁護士法は、持分会社よりも業務執行の決定方法に自由度をもたせるために、会社法第590条のようなデフォルト・ルールを定めなかったのではないかと思われます。
従って、「業務の執行に関する事項」は、弁護士法第30条の12の内容を条文どおり記載するのではなく、社員の過半数で決定するのか、出資金額に応じて議決権を割り当てるか等、定款において具体的な定めを置くことが望ましいように思われます。

(8) 社員の出資金額はいくらにすればよいか

次のような決め方があるようです。

・法人の運転資金に若干の余裕をもたせた額を設定する
・最低限の額を形式的に出資する(1万円、10万円など)

法令上、金額の上限や下限はありませんが、出資金を少額とする場合は、運転資金の確保の兼ね合い等、運営上の問題が生じないかは検討が必要と思われます。

(9) 社員の出資は必須か

弁護士法人においては社員の出資は必須ではないと考えられます。

弁護士法人は合名会社類似の法人と考えられ(参考:弁護士法30条の30第4項)、各社員が無限責任を負っており、弁護士法上も、社員の出資履行義務については特段規定されていない(合同会社の社員の出資履行義務について定めた会社法578条や604条3項も準用されていない)ためです。

また登記手続上も、出資の履行を証する書面は求められておりません。

もっとも、実務的には各社員が一定額の出資をすることの方が多いと思われます。

参考となる資料

インターネット上には情報が少ないので、列挙します。

  • 弁護士法の一部を改正する法律等の施行に伴う法人登記事務の取扱いについて(平成一四・三・二五民商第七一七号通知)
    →インターネット上には見当たりませんでした。登記六法 別冊に掲載されています。
  • 登記制度研究会編『法人登記総覧』(新日本法規) 
  • 日本法令法人登記研究会 編『法人登記の手続』(日本法令)
    →2016年の6訂版以降改訂がありません。2023年5月現在、旧版も含めて書店での取り扱いがないことが多く、入手困難です。ぜひ最新版を出版していただきたいです。
  • 『弁護士法人設立の手引き』
    →日本弁護士連合会が発行している資料があるようです。弁護士であれば入手可能かもしれません。但し詳細は確認しておりません。
  • 破産した弁護士法人の登記情報
    →(その是非はさておき)インターネットで検索すればヒットするものがあります。登記記録例の参考になります。弁護士法人ミネルヴァ法律事務所等。

関連法令

  • 組合等登記令第16条
  • 組合等登記令第25条によって準用される商業登記法の各規定
  • 各種法人等登記規則第5条によって準用される商業登記規則の各規定

おわりに

当事務所では、弁護士法人のほか、下記のような法人関係の登記手続も取扱をしています。設立や変更の登記手続については、インターネット上で確認可能な資料も少なく、専門家のサポートなしに進めることが難しい手続きもあります。お役に立てることがございましたら、是非ご連絡ください。

(取扱可能な法人の例)
一般社団法人、一般財団法人、外国会社、NPO法人、合資会社、合名会社、特定目的会社、投資法人、医療法人、学校法人、社会福祉法人、管理組合法人、農業組合法人、監査法人、弁護士法人、有限責任事業組合、投資事業有限責任組合(LPS) などの登記手続全般