本稿では、株式会社が上場をすることに伴い、新規に公募による募集株式発行をする場合の登記手続の概要について解説します。
1.登記の必要書類
通常の募集株式発行とほとんど変わりませんが、IPO特有の実務に沿って決議等が行われることに留意する必要があります。一般的に登記手続の添付書類となるものは下記のとおりです。
(1) 取締役会議事録
公募を行う前に公開会社となる旨の定款変更が実施済であることを前提に記載しています。公開会社が募集株式発行を決議する場合は、原則として取締役会決議によります(会社法201条1項)。
IPO時の実務では、取締役会が複数回に分かれることがあります。1回目の取締役会では、募集株式の数や払込期日が決定されますが、払込金額や増加資本金額等は、株式の需要状況をみながら後日決定される場合も多くあります(ブック・ビルティング方式などと呼ばれます)。その場合は、後日、払込金額等を決定した際の取締役会議事録も、あわせて登記の添付書類となります。
(2) 引受価額の決定証明書(※必要に応じ)
通常の募集株式であれば、資本金増加額は払込金額をベースに算出されますが、IPOに伴う公募増資の場合は、「払込金額」ではなく、「引受価額」をベースに算出されることがあります。具体的には、例えば、「増加する資本金の額は●年●月●日に決定される予定の国内募集に係る引受価額を基礎として、会社計算規則第14条第1項に基づき資本金等増加限度額の2分の1の金額とし、計算の結果1円未満の端数が生じたときは、その端数を切り上げる。」などと規定されることがあります。
登記申請との関係では、「引受価額」をベースに資本金増加額が決定される場合、引受価額を決定したことを証する書面の添付が必要となる場合があります。
引受価額の決定については、取締役会決議において、代表取締役に一任されることも多くあります。代表取締役が単独で決定した場合は、会社法上、その決定書面を作成する義務はありませんが、代表取締役の決定書を作成のうえ、登記申請に添付することが求められる場合があります。なお、代理人による申請の場合は、登記委任状の委任事項に、引受価額を補記することで、登記委任状の記載を援用する形で引受価額の決定書面とすることも可能です。
具体的な引受価額の確認方法ですが、実務上は、有価証券届出書の臨時報告書(又はその訂正報告書)にて、決定後の引受価額が開示されることが通常ですので、そちらも適宜参照のうえ確認をします。
(3) 募集株式の株式申込証
主幹事証券会社が発行する株式申込証等がこれに該当します。
(4) 払込があったことを証する書面+入金記録の取引明細書など
「払込があったことを証する書面」は、様式を司法書士が作成することが一般的です。上記書面に、払込期日に入金された増資払込金の入金記録等(銀行発行の取引明細書など。口座名,支店名,払込日,金額が記載されていればWEBから取得できるものでも可)を添付します。
(5)資本金の額の計上に関する証明書
一般的には司法書士が様式を作成します。会社法上の「払込金額」を超過して払込がなされた場合の記載方法については後述します。
(6) 登記委任状
代理人司法書士等に登記申請を委任する場合の委任状です。
(7) 登録免許税の領収証書
金融機関等で納付する場合は、国税の領収証書原本を添付します。登録免許税は、原則として資本金の額の7/1000となり、公募増資の場合は登録免許税が高額になる場合が多くあります。
2.会社法上必要となるその他の書類
(1) 募集事項通知書
引受申込人に対して募集事項を通知するための資料ですが、登記手続との関係では必要添付書類にはなりません。ただし、登記との関係では、最終的な払込期日や増加資本金額を確認するための根拠資料となりますので、司法書士に対して共有するのが望ましいです。(司法書士側は、これを確認することが望ましいです。)
(2) 株式割当通知書
会社法204条3項に基づき、申込にかかる株式の数や、割当数を通知するための書面ですが、登記手続との関係では必要添付書類にはなりません。
3.IPOによる公募増資特有の要素と注意点
(1) 「売出し」とは
公募増資を決定した取締役会の決議事項をみると、募集株式発行のほか、「売出し」を承認している場合もあるかと思います。
この「売出し」は、募集株式発行とは異なる概念ですので、登記手続には関係しません。「売出し」は、「セカンダリー」などとも呼ばれますが、投資家に対する既発行株式の勧誘を意味します。したがって、新株の発行には該当せず、売出しに関しては、原則として登記手続は不要です。
また、既発行株式の勧誘のため、原則として売出し部分については資本金の額の増加もありません。
(2)公募増資の効力発生日
公募増資(資本金増加)の効力発生日は、募集株式発行決議で「払込期日」が定められている場合は、その「払込期日」当日となります。いわゆる「上場日」と必ずしも一致しない場合もありますので、注意が必要です。
3.引受価額と払込金額の関係と、資本金の額の計上に関する論点
IPO時の公募増資においては、通常の(非上場会社の)増資と異なり、「引受価額」と(会社法上の)「払込金額」に差が生じることが一般的です。登記実務上は、(1) 現実の払込額が、決議済の(会社法上の)「払込金額」以上であること、 (2) 資本金増加額が、現実の払込額を基礎として計算されていること、の条件が満たされていれば、登記手続上問題ないとされています。(松井信憲著『商業登記ハンドブック(第5版)(商事法務・2025)』)
その根拠として、募集事項における払込金額は、資本金の額の算定基礎となる「払込みをした財産の額」(会社法445条)との間には、直接の関係はないとの見解が挙げられています。もっとも、この論拠となる旬刊商事法務1741号20頁は、会社計算規則施行前(2025年)に寄稿された論考です。同論考には、「どのように当該額を定められるかは、法務省令で定められることとなる。」との記載があります。すなわち会社計算規則においてどう委ねられるかが、まだ不明な時点の解釈だった可能性があります。
この点、結果として、現行の会社計算規則第14条第1項第1号では、「法第二百八条第一項の規定により払込みを受けた金銭の額」と、募集株式の出資の履行(払込)について定めた会社法208条がリファーされています。したがって、資本金増加額が「払込金額」と完全に無関係と言い切ってよいのかは若干の疑問があります。
以下、この点について検討します。下記は会社法の条文です。
(出資の履行)
第二百八条 募集株式の引受人(現物出資財産を給付する者を除く。)は、第百九十九条第一項第四号の期日又は同号の期間内に、株式会社が定めた銀行等の払込みの取扱いの場所において、それぞれの募集株式の払込金額の全額を払い込まなければならない。
これによると会社計算規則第14条第1項第1号中の「法第二百八条第一項の規定により払込みを受けた金銭の額」=「払込金額の全額」という解釈になりそうです。つまり「払込金額」を超過して払込があった分は含まない概念という解釈も成り立ちそうです。
一方で、「法第二百八条第一項の規定により払込みを受けた」は、単に、増資の手続に伴って払込をした、という意味以上のことはなく、払込金額を超過した場合は、その超過分も含めた金額なのだという解釈もできそうではあります。
資本金の額の計上に関する証明書に記載する、「① 払込みを受けた金銭の額(会社計算規則第14条第1項第1号)」は、「払込金額」ではなく実際に払込を受けた金額(引受価額)とする場合、「当該金銭の当該払込みをした者における当該払込みの直前の帳簿価額」(会社計算規則第14条第1項第1号ロ)」を記載するべきなのではという疑問もあります。
もし帳簿価額を記載するのだとしたら会社計算規則第14条第1項第1号ロ「当該払込みを受けた金銭の額(イに定める額を含む。)により資本金等増加限度額を計算することが適切でない場合」に該当するということが前提になりますが(イは外国通貨についての規定なので、国内会社のIPOについては関係ない場面がほとんどです)、このロはいったいどういう場面を想定しているのか、よくわからないようにも思われます。
「払込金額」を超過して払込があった場合でも「当該払込みを受けた金銭の額」(ちなみに「当該払込み」とは「法第二百八条第一項の規定による払込み」と読み替えられます。)には該当すると思うので、ロには該当しないという整理でもよさそうです。
結論としては、資本金の額の計上に関する証明書に記載する、「① 払込みを受けた金銭の額(会社計算規則第14条第1項第1号)」には、「払込金額」ではなく、現実に払い込まれた超過分も含んだ金額をそのまま記載することでよいように思われます。