本稿では、株式会社において、定時株主総会の開催の遺漏によって役員の任期が既に満了済であったにもかかわらず、任期が継続しているものと誤解して、誤って辞任の登記をしてしまった場合の対応方法について解説します。
1.前提となる事例
以下の事例をもとに検討します。
・12月末決算の会社
・取締役全員の任期は2024年12月に終了する最終の事業年度に係る定時株主総会終結時までとされていた。
・2025年3月31日までに本来定時株主総会を開催すべきところ、開催を失念していた。
・2025年6月30日、取締役のうち1名が辞任をし、同日付で辞任登記行い、受理された。
2.事実関係の整理
上記の事例のもとでは、以下のとおり整理されます。
(1) 取締役の任期は2024年12月に終了する最終の事業年度に係る定時株主総会終結時までとされていたところ、定時株主総会が適時に開催されなかった場合は、定款で定められた定時株主総会の開催時期の経過とともに、任期が満了すると解されています(昭33.12.23民事甲2655号回答、昭38.5.18民事甲1356号回答)。よって、本件の場合は、2025年3月31日に取締役の任期が満了します。
(2) 上記(1)のとおり2025年3月31日付で取締役全員の任期が満了したため、会社には取締役が不在の状態となりますが、新たに取締役が就任するまでは、なお取締役としての権利義務を有します。(会社法第346条)
(3) 取締役としての権利義務を有する者は、辞任することはできません(昭35.10.20民四197号回答ほか)。よって、2025年6月30日付の取締役の辞任は無効となります。
3.なすべき登記
(1) 2025年6月30日付の取締役辞任につき無効の原因があったことによる登記の抹消 及び (2) 上記(1)を前提に2025年3月31日付の取締役退任の登記
となります。
4.添付書類
(1) 上申書(登記された事項につき無効の原因があることを証する書面として)
(2) 定款 (取締役の任期及び定時株主総会の開催時期を証する書面として)
5.上申書の内容について
特に提携の書式等があるわけではないですが、以下のような構成で作成するとわかりやすいでしょう。なお、司法書士等の代理人を、書面上、作成名義人として表示することはできず、あくまで代表取締役の名義で作成・提出する必要がありますので、ご注意ください。
上申書
●年●月●日
●●法務局●●出張所御中
[住所][会社名] 代表取締役●●
当会社は、令和7年6月30日付で、取締役Xの令和7年6月30日付辞任に係る登記を申請しました。
しかし、実際には、取締役X及び代表取締役Yを含む当会社の取締役及び代表取締役全員の任期は、令和6年12月31日に終了した事業年度に係る定時株主総会を令和7年3月31日までに当会社が適時に開催できなかったことにより、定款第●条の定めに基づき、既に令和7年3月31日をもって満了しておりました。
令和7年6月30日当時、登記申請人である代表取締役Y及び取締役Xは、それぞれ、当会社の取締役及び代表取締役全員が任期満了により既に退任していたという認識を有しておりませんでした。取締役及び代表取締役が欠けた場合に引き続き取締役又は代表取締役の権利義務を有する者は、辞任することができないとされているところ、取締役Xの令和7年6月30日付の辞任の意思表示及び代表取締役Yによる当該辞任に係る登記申請は、辞任の意思表示がなされた当時にXの任期が有効に継続していたとの誤った認識を前提になされたものです。
よって、取締役Xの辞任につき、無効の原因がありますので、当該辞任の登記を抹消したうえで、あらためて、取締役Xにつき、令和7年3月31日付退任の登記の申請をすることとしたく、ここに上申いたします。