募集株式の発行や、募集新株予約権の発行の登記に際しては、募集株式(募集新株予約権)の引受けの申込又は総数引受契約の締結があったことを証する書面を添付する必要があります。
本稿では、発行会社の代表者が作成したいわゆる「引受人リスト形式」での書面作成に関する、実務上の運用等について解説します。
1.引受人リスト形式の書面とは
登記申請においては、募集株式/募集新株予約権の引受けの申込又は総数引受契約の締結があったことを証する書面として、申込書や引受契約「そのもの」を添付するのが原則です。
但し、発行会社の代表者が作成した申込み又は引受けがあったことを証する書面に、①申込証又は引受契約書の雛形、及び、②申込者又は引受者の一覧表を合綴したものも、申込書等「そのもの」に代えて認められる扱いとなっています。
これは、引受人が多数存在する際に、引受人全員分の契約書を全て添付するのは煩雑であることから認められている取扱であると考えられます。
本稿では上記のとおり例外的に認められている方法を、以下、「引受人リスト形式」と呼ぶことにします。
2.「引受人リスト形式」を検討すべき場面
例えば、以下のような場面では引受人リスト形式による書面が有用です。
①引受人が多数いるような場合
②引受人が海外に在住しており、署名済の書面原本の取得に時間を要することが考えられる場合
3.引受人が1名の場合でも「引受人リスト形式」は可能か
結論としては、法務局において受理されている実例はありますが、若干疑義があるように思われます。
(1)通達の記載からは疑義も
引受人リスト形式が認められる根拠である通達を確認すると、引受人1名の場合に引受人リスト方式が可能かは、通達の文面上は若干疑義があると思われます。
まず、根拠通達(何度かアップデートがありますが、2024年1月現在の最新の通達)は「複数の契約書により一の総数引受契約が締結された場合における募集新株予約権の発行に係る総数引受契約を証する書面の取扱いについて」(令和4年3月28日法務省民商第122号)であると思われます。
表題は、「複数の契約書により」となっており、場面が限定されているようにも読めます。
ただ、通達本文では次のとおり記載されています。
「募集新株予約権の発行による変更の登記の申請書に、募集新株予約権の発行会社の代表者が作成した総数引受契約があったことを証する書面に総数引受契約のひな形及び引受者の一覧表を合綴したものが添付された場合には、当該書面を法第65条第1号の総数引受契約を証する書面として取り扱って差し支えない。(以下略)」
本文のみ見ると、「複数の」という限定が付されていないと解釈できるようにも見えます。
(2)受理している法務局もある
東京法務局管内のとある法務局に対し、引受人1名のみの状況で引受人リスト形式による書面で登記申請をしたところ、特に指摘を受けず受理された例が複数回ありました。(2023.12-2024.1.にかけて申請した登記)
もっとも、全国的に統一的に受理されているかは若干疑問があるようにも思われ、注意が必要です。
4.引受人リスト形式のリスク
引受人リスト形式の場合、引受けがあったことを証明するのは発行会社の代表者のみです。そのため、書面上は、引受人側の引受意思が確認できないという問題があります。
登記手続上は、そのような形式でも受理されるとはされています。しかし、万一、引受人に引受意思がないのに勝手に書面を作成されて登記をされてしまった(してしまった)、という場合でも、法務局に責任はなく、会社の自己責任となります。
私ども司法書士としても、引受人リスト形式での登記申請の場合は、前述のようなリスクがあることを踏まえ、できるだけ会社のご担当者様に引受契約が問題なく締結済かどうかを確認するようにしています。
5.まとめ
引受人1名・契約書が1通のみの場合でも、いわゆる引受人リスト形式による「引受けを証する書面」は受理されている実例はありますが、通達の文言上は若干疑義があるところです。
いずれにしても、引受申込書又は引受契約書は、専ら登記手続に使用する「引受けを証する書面」とは別に適切な形で準備し、もし法務局から提出要請があった場合には速やかに提示できるようにしておくことが望ましいと考えられます。
6.引受人リスト形式による「引受けを証する書面」の様式例
様式例はこちらからダウンロードできます。
※あくまで参考例となります。実情にあわせて修正が必要となります。また、本様式を用いることで必ず登記が受理されることを保証するものではありません。
7.おわりに
当事務所では、増資、新株発行、新株予約権発行、ストックオプション等の資金調達に関する登記の取扱も多く担当しております。ご相談事項等がございましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。