登記名義人が権利能力なき社団の旧代表者である場合における所有権の移転登記手続

権利能力なき社団(町内会など)の旧代表者名義で所有権の登記がされている不動産につき、その所有権を第三者に譲渡した場合の手続きについて解説します。

1.なすべき登記

権利能力なき社団の旧代表者名義で所有権登記がされている不動産を第三者に譲渡した場合、いったん権利能力なき社団の現代表者名義に所有権登記をし、その後所有権移転登記をすべき、との先例があります(平成2年2月9日 民三1147号)。

そのため、旧代表者から直接第三者に対する所有権移転登記はできないと考えられています。すなわち、①旧代表者から現在の代表者名義に所有権の移転登記手続をし、②次いで、現在の代表者が登記義務者となり、第三者(買主)が登記権利者となって所有権移転登記の申請をすることが望ましいものとされています。

なお、上記①の登記の登記原因は「委任の終了」となり、この記載ぶりで登記情報に記録されます。

2.旧代表者が既に死亡していた場合

この場合は、登記名義人の相続人全員を登記義務者として、上記1.①(委任の終了)の登記をする必要があります。

長い間、旧代表者名義での登記が放置されていた場合、相続人が多数にのぼり、登記手続に大変な手間を要する場合がありますので、注意が必要です。なお、相続登記が義務化されましたが、権利能力なき社団の代表者が死亡しても、相続が発生するわけではないため、代表者変更登記については相続登記義務化の対象外です。しかし、そうだとしても、上記の理由から、登記名義人の死亡があった場合には早めの手続をおすすめします。

3.添付書類

上記1.①(委任の終了)の添付書類は下記のとおりです。

・登記原因証明情報 (※後記4.で解説)
・登記識別情報 又は 登記済証(権利証)
・登記義務者(旧代表者)の印鑑証明書
・登記権利者(新代表者)の住所証明情報(住民票など)
・代理人による申請の場合は、委任状
・固定資産税評価証明書(※登録免許税の根拠資料として参考までに提出するもの)

旧代表者が死亡している場合は、旧代表者の印鑑証明書に代えて、相続人全員の印鑑証明書が添付書類になります。また、相続証明情報(被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本、相続人全員の現在の戸籍謄本など)が追加で必要となります。

4.登記原因証明情報について

売買等に伴う所有権の移転ついては通常売買契約書が作成されますが、権利能力なき社団の代表者変更については通常契約書等の書類は作成されないと思われます。そのため、専ら登記手続のために使用すべき登記原因証明情報を作成することは必須になるものと思われます。

権利能力なき社団の代表者変更については、「委任の終了」を原因とする所有権移転登記をすることになります。しかし、登記手続上は所有権移転登記を申請することとされているものの、実体としては代表者変更があったのみです。従って、所有権が権利能力なき社団にあること(厳密には構成員の総有ですが)自体は変更がありません。言い換えれば、登記手続上は、便宜的に「所有権移転」を申請することにはなるものの、実際には所有権の移転が起きているわけではありません。

登記原因証明情報の書式例において、所有権の移転があった、という記載がされているものがありますが、以上の理由から厳密には正確ではなく、例えば次のような記載ぶりにすることが望ましいものと思われます。

(1)本件不動産の所有者である●●会は権利能力なき社団であるため、代表者である▲▲名義で、所有権保存登記がなされている(昭和●年●月●日受付第●号)。

(2)令和●年●月●日、■■が●●会の新代表者に就任した。

(3)よって、本件不動産の所有権登記の登記名義人となるべき者は、令和●年●月●日、委任の終了により、▲▲から■■に変更となった。

5.おわりに

町内会などが関係する不動産に関する登記手続、その他の登記手続について、ご相談事項がございましたら、どうぞご遠慮なくご相談ください。

司法書士・行政書士 司栗事務所代表。日本企業やグローバル企業からの依頼による会社・法人の設立、株主総会、M&A、グループ内再編、独禁法関連、特定目的会社を利用した資産の流動化、金融商品取引業、投資法人(REIT)等に係る登記手続や官公署への届出事務等に多数関与した経験を有する。
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