司法書士・行政書士は業として法務デューディリジェンスを行うことができるのか

法律事務所においては、企業の買収や不動産の取得等に際して、法務監査(法務デューデリジェンス:以下「DD」といいます。)を行うことがあります。企業法務を中心に取り扱う法律事務所においては、契約書や労務関係等のチェックのほか、許認可や登記に関連したチェックやレビューなども、通常、弁護士又は弁護士とパラリーガルのチームで行っていることが一般的と思われます。しかし、登記や許認可等、特定の分野に関しては、これらの手続に精通したプロである司法書士や行政書士の知見が活用できる可能性は大いにあると思われます。

本稿では、司法書士や行政書士が業としてDDのサポートをする場合、司法書士法・行政書士法上、取扱可能業務としてどのように根拠付けるべきか(そもそもの受任段階の論点)につき考察した結果を記載します。なお、本稿の記載はすべて私見ですのでご留意ください。

司法書士法との関係

司法書士法上、司法書士が登記に関して取り扱える業務は、主に登記手続の代理や、登記手続に関して相談に応ずること、と規定されています(司法書士法3条)。

従って、DDで想定される作業、具体的には、会社や不動産の登記情報を確認し、法的リスクや問題点となりうる点を指摘するといった作業は、登記の申請行為が予定されていない業務又は申請行為とは直接関係がなく行われるものといえ、少なくとも、司法書士法上は司法書士がこのような業務を行うことは想定していないように見えます。

しかし、登記のプロである司法書士が、登記情報のチェックを行って法的問題点やリスクについてアドバイスをすることが禁じられているはずはないと思います。

(1)相談業務との関係

司法書士法との整理を考えるのであれば、登記手続の代理に関して相談に応ずること(司法書士法3条1項5号)に該当すると解釈する余地はあるようにも思われます。ただ、条文上は、ここでいう相談の対象は、手続代理や書類作成とされている点に留意すべきでしょう。すなわち、法務監査のように、将来の申請手続や手続代理が想定されていない状況で行われる業務を相談と位置付けてよいかについては、疑義はあるようにも思われます。

(2)附帯関連業務との関係

上記のような問題もあり、現状、DDに司法書士が携わる場合の整理としては、附帯関連業務と位置付けるしかないように思われます。司法書士については、「法令等に基づきすべての司法書士が行うことができるものとして法務省令で定める業務」として、司法書士法施行規則において「法第三条第一項第一号から第五号まで及び前各号に掲げる業務に附帯し、又は密接に関連する業務」、いわゆる附帯関連業務を取り扱える旨が規定されています(司法書士法29条1項1号、司法書士法施行規則31条)。附帯関連業務の具体的な範囲は条文上不明確ではあるものの、少なくともDDの一環として行う登記情報のチェックは、登記の専門家として司法書士が行う業務として密接関連性があるといえ、附帯関連業務と整理することは可能であると思われます。

行政書士との関係

行政書士法との関係についても、概ね司法書士法と同様の整理になります。

まず、行政書士が取り扱える業務は、主に官公署に提出する書類や権利義務又は事実証明に関する書類の作成とされています(行政書士法1条の2、1条の3)。作成はできますが、法務監査のような監査、すなわちレビューやチェックは、行政書士法においては、行政書士が取り扱う業務として直接的には想定されていないように思われます。

(1)相談業務との関係

また、相談業務については明確に取扱業務として規定されている点は司法書士と同様です(行政書士法1条の3第3号)。そのため、DDに伴い行うチェックを相談業務の一環と捉える余地はあるように思います。もっとも、司法書士法と同様の論点ではありますが、「相談」の対象が、「行政書士が作成することができる書類の作成について」とされている点に留意すべきでしょう。すなわち、書類の作成が予定されていない状況で行う許認可のチェックを相談業務と位置付けられるかについては、司法書士法との関係と同様、若干疑義があるようにも思われます。

(2)附帯関連業務との関係

そこで、行政書士法との関係においても、現状、DDについては、「法令等に基づき行政書士が行うことができる業務」として規定されている、いわゆる附帯関連業務(行政書士法13条の6第1号、行政書士法施行規則12条の2第4項)と整理せざるを得ないものと思われます。附帯関連業務の具体的な範囲は条文上不明確ではあるものの、少なくともDDの一環として行う許認可関連のチェックは、許認可の専門家として行政書士が行う業務として密接関連性があるといえ、附帯関連業務と整理することは可能であると思われます。

まとめ

登記や許認可のプロである司法書士や行政書士は、DDについても当然に業として行えるものと考えていましたが、現状、司法書士法や行政書士法上は、法務監査の業務は、伝統的な司法書士・行政書士の業務のイメージからは外れるためか、特殊な業務と位置付けられ、条文上は附帯関連業務と整理せざるをえないのが実情です。

企業法務の複雑化に伴って、司法書士や行政書士にも、単に手続代理を行うこと以上の役割が求められてきていることは疑いのないところだと思います。弁護士と協力できる法律隣接職として、司法書士や行政書士の新たな業務範囲として活躍のフィールドを作っていきたいと考えております。

当事務所では、大手法律事務所でのパラリーガルの経験を活かした、法律事務所と協力してのDDのサポート等も承ります。どうぞお気軽にお問い合わせ・ご相談ください。

司法書士・行政書士 司栗事務所代表。日本企業やグローバル企業からの依頼による会社・法人の設立、株主総会、M&A、グループ内再編、独禁法関連、特定目的会社を利用した資産の流動化、金融商品取引業、投資法人(REIT)等に係る登記手続や官公署への届出事務等に多数関与した経験を有する。
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