取締役会で、移転場所とともに移転時期を概括的に決議した場合の登記申請の添付書類

取締役会で移転時期を概括的に定めた場合の登記申請について、先例や文献に記載されていない論点があると感じましたので、下記に記載します。

1.取締役会で移転時期を概括的に定めて申請する本店移転登記の可否

取締役会で移転時期を概括的に定めた場合において、現実に本店を移転した日がその決議の範囲内であれば、これを受理することができるとされています。
(昭41・2・7民四75号回答,登記研究221号49頁, 284号78頁)

2.取締役会で移転時期を概括的に定めた場合の本店移転登記の添付書類の考え方

取締役会議事録に係る移転年月日が概括的な記載である場合には、議事録とは別に、現実の移転年月日を証する書面を添付する必要があるとされています。
(登記研究99号41頁)

・・・先例や、解説書で記載されているのはここまでです。

3.具体的な添付書類

では「現実の移転年月日を証する書面」とは何なのでしょうか?
実務上、最も知りたいのはおそらくこの点なのですが、この点について踏み込んで解説した資料が見つかりません。実際に上記先例に依拠して申請される事例が少ないためだと思われます。

管轄法務局に照会したところでは、次の見解を採用しているようでした。
(※全国的な取扱かは不明ですので、ご注意ください。)

・前述の登記研究221号49頁では、「イ説」「ロ説」の両者が提示されており、登記所としては「ロ説」を採用している。

・前記「ロ説」は、「申請書に記載された年月日をもって移転した日と解し、受理すべきである。」とある。

・したがって、申請書に現実の移転日の記載があれば、受理できる。すなわち、特段の添付書類は不要である。代理人による申請の場合には、委任状に、現実の移転日を記載すれば足りる

登記研究99号41頁(前記2.参照)と整合しないように思われますが、そこはよくわかりませんでした。

4.「現実の移転年月日を証する書面」として考えられるもの

上記3.の見解に従い、問題なく登記できた実例はあります。ただし、「現実の移転年月日を証する書面」として、次のいずれかを念のため添付することも考えられると思われます。

もっとも、下記はいずれも自己証明のような形になるので、申請書の記載とは別に証明書を用意する意義があるかは、若干疑問ではあります。

いずれにしても、念のため、事案ごとに、管轄法務局の見解に従って、対応するのが安全でしょう。

1.次のような内容の代表取締役作成の証明書

「当会社は、令和●年●月●日に、東京都●●区▲▲●丁目●番●号に本店を移転をしましたので、これを証します。
令和●年●月●日
東京都●●区▲▲●丁目●番●号
●●株式会社 代表取締役●●」

2.本店移転に関する社外向け案内資料(顧客宛挨拶状・ホームページ上の案内文・プレスリリース等)に、代表取締役がその内容に相違ない旨記載し、記名(または記名押印)したもの

司法書士・行政書士 司栗事務所代表。日本企業やグローバル企業からの依頼による会社・法人の設立、株主総会、M&A、グループ内再編、独禁法関連、特定目的会社を利用した資産の流動化、金融商品取引業、投資法人(REIT)等に係る登記手続や官公署への届出事務等に多数関与した経験を有する。
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