2023.10.12 最終更新
本稿では、減資や組織再編手続に際して行われる債権者保護手続を、官報+日刊紙又は官報+電子公告で行う、いわゆるダブル公告について、実務上論点となる点を整理します。本稿は随時更新予定です。
1.債権者保護手続に関する基礎知識
Q. 債権者保護手続とは何か
株式会社が資本金や準備金を減少する場合、組織変更をする場合、組織再編行為をする場合等には、債権者が一定の期間内に異議を述べることができる旨等を官報に公告し、かつ、知れている債権者には、各別にこれを催告する必要があります(会社法第449条、第779条、第789条、第810条、第816条の8)。この手続を、一般的に「債権者保護手続」といいます。
2.ダブル公告に関する論点
Q.いわゆるダブル公告とは何か
債権者保護手続の公告を、官報のほか、定款で定める日刊紙又は電子公告の方法によりするときは、債権者への各別の催告を省略することができます(会社法第449条第3項等)。
官報+日刊紙、官報+電子公告といった、2つの媒体で公告をすることから、通称ダブル公告などと呼ばれます。
なお、会社解散や、外国会社の日本における代表者の全員の退任等、廃業的な性質の手続において行われる債権者保護手続においては、ダブル公告をしても、各別の催告を省略することはできません(会社法第499条第1項、第820条第1項参照)。
Q.ダブル公告を採用する手続的メリット・デメリットは何か
主なものを表形式で整理しました。
ダブル公告のメリット | ダブル公告のデメリット |
・催告を個別に発送する事務手続が不要となる ・催告書の発送漏れを防げる | ・公告掲載費用が約二倍(二つの媒体分)かかる ・公告方法が官報の場合は、事前に公告方法変更手続(登記手続を含む)が必要 →全体のスケジュールが数週間後ろ倒しになる。 |
Q.どのような会社がダブル公告を選択すればよいか
一般的には次のように考えられます。
ダブル公告方式 | 定款上の公告方法による公告+個別催告方式 |
取引が多く、多数の債権者を有する大規模な会社に向く。 | 債権者が数名しかない小規模な会社やSPCに向く。 |
Q.日刊紙と電子公告のどちらを選べばよいか
それぞれの特徴を表形式で整理しました。
日刊紙 | 電子公告 | |
手続の比較 | 掲載取次店に掲載申込 | 自社ウェブサイト等に掲載するほか、電子公告調査機関への申込が必要 |
申込期限 | 取次店にもよるが概ね掲載6~8営業日前 | 調査機関にもよるが概ね掲載4~5営業日前 |
メリット | 中断リスクがない。 | ・一般に日刊紙よりは低コストで可能。 ・自社で管理がしやすい。 |
デメリット | ・新聞休刊日が存在するため、スケジューリングに留意が必要。 ・一般に電子公告より掲載コストが高い(※ただし、日刊工業新聞等、掲載費が比較的安価な日刊紙も存在する)。 ・公告掲載紙を登記の添付書類とする場合、電磁的方法で添付することが現状不可能(=オンライン登記申請が不可) | ・サーバーエラー等による中断リスクがありえる ・前年度の決算公告の掲載が未了で決算公告を同時掲載する場合、貸借対照表の要旨ではなく全文を掲載する必要がある。 |
注目すべきは、電子公告の中断リスクです。筆者が過去にグローバル企業グループの再編手続を進めていた際、公告ページがダウンしてしまったが、ブラジルの担当者に連絡しないと復旧できず、時差の関係ですぐの対応が難しいと言われてしまったことがあります。管理体制が整っている会社であればよいですが、グローバル企業の場合や、ウェブサイトの管理をアウトソースしているような場合は、復旧対応が迅速に行えない可能性も考えられ、注意が必要です。
Q.電子公告に中断が生じた場合、どのような影響があるか
万一公告の中断が生じた場合に、公告の効力に影響が及ばないようにするためには、中断の内容等を当該公告に付して公告する必要があります(会社法第940条第3項第3号)。
なお、追加公告をした場合であっても、公告の中断が公告の効力に影響を及ぼさないと認められるためには、公告の中断が生ずることにつき会社が善意無重過失か正当な理由があること(会社法第940条第3項第1号)及び公告の中断が生じた時間の合計が公告期間の10分の1を超えないこと(会社法第940条第3項第2号)という要件のいずれも充たす場合に限られます。
Q.ダブル公告を行うために、定款はどう変更すればよいか。
定款中の公告方法の定めを以下のとおり変更します。
官報+日刊紙に公告する場合の例:
当会社の公告は、●●新聞に掲載してする。
官報+電子公告の場合の例:
当会社の公告は、電子公告に掲載してする。ただし、事故その他やむを得ない事由によって電子公告をすることができない場合は、官報に掲載してする。
「官報及び●●新聞」とするのはあまり一般的ではありません。
また、注意すべき点として、「官報又は●●新聞に掲載してする。」など、選択的な公告方法を定めることはできません。債権者としては、どちらの公告媒体を確認すべきか分からないので、負担になるためです。
なお、事故その他やむを得ない場合の予備的公告方法を定めることは問題ありません。
Q.ダブル公告を行うために公告方法を官報から変更したい。その公告方法変更手続はいつ行うべきか
公告掲載日までに、少なくとも公告方法を変更するための株主総会は終了している必要があります。
公告方法変更に係る登記手続をいつまでに行えばよいかについては、実務上確立した見解はないように思われます。ただし、公告掲載日までに公告方法変更登記が完了し、変更が反映された登記事項証明書が取得可能な状態になっていることが最も望ましいと思われます。債権者が、公開資料から、会社の公告方法を確認することができるのは、登記を確認する方法しかないためです。
なお、法務局の処理に時間がかかる場合もあるため、公告掲載日までに登記手続が完了できない場合もあります。この場合でも、少なくとも、公告掲載日までに登記申請をする(法務局窓口に提出する)ことが望ましいでしょう。
(2023/7/23追記:登記研究905号P155において、上記と同趣旨の見解が出たようです。
「組織再編に係る債権者保護手続に際して、知れたる債権者への各別の催告を省略するために、定款上の公告方法を官報から日刊新聞紙に掲載する方法又は電子公告に変更をする場合において、公告方法の変更の登記の申請日より前の日を公告日又は公告の開始日とする、当該変更後の公告方法による公告をしたことを証する書面を添付してされた組織再編に係る登記の申請は、受理することができない。」)
以上を前提とすると、ダブル公告を行うに先立っての公告方法変更は、掲載日の2~3週間前くらいから準備をする必要があります。登記申請を公告掲載日までに余裕をもって行えるよう、スケジューリングに注意が必要です。
3.おわりに
当事務所では、大手法律事務所においてグローバル企業グループの複雑なグループ内再編等を多く取扱った経験等を活かし、各種組織再編に関する会社法上の手続書面の作成や、登記手続を豊富に取扱っています。組織再編に関して会社法や登記関係のサポートが必要な場合は、どうぞお気軽にご相談ください。