論考・記事

会社の解散・清算に関する実務上の留意点
2023.03.23

会社の解散・清算手続における、会社法上の規制以外に実務上問題となり得る点や留意すべきポイントについて、過去の経験をもとにいくつか列挙します。なお特に断りのない限り株式会社を念頭に記載します。

1.スケジューリングに注意/清算結了まで長期間かかる事例も

清算結了(一連の解散・清算手続の完了)を今年度中に終わらせたいが、手続完了までどの程度の期間を見込んでおけばよいかとご質問をいただくことがあります。

会社法上は、公告掲載後の弁済制限期間として2か月確保する必要があるものの、その他には時間的な制約はほぼありません。そのため、理論上は、最短で解散決議から2か月半程度で清算結了に至らせることは可能です。

ただし、実際のところ、清算結了まで半年~1年程度かかる例もあり、場合によっては2年近くかかる例も多くありますので、注意が必要です。時間がかかる要因としては、税金の還付手続に時間がかかる等、税務上の都合である場合が多くあります。

従って、法務アドバイザーのみならず、税務アドバイザーとも適宜連携したうえで、スケジュールの見通しをたてる必要があります。

2.債務超過でないことの確認

会社が債務超過の疑いがある場合、裁判所による特別清算の手続きの対象となります(会社法第510条第2号)。特別清算は通常の清算手続とは異なり、裁判所の関与が必要な手続きです。この確認を怠ったまま通常の清算手続を進めてしまうと、特別清算の形でやり直す必要が生じ、後戻りが必要となってしまう可能性があります。従って、手続開始前に必ず債務超過でないことを確認することが必要です。

また、実務上該当する例は稀と思われますが、「清算の遂行に著しい支障を来たすべき事情があること」も同様に特別清算の開始原因となります(会社法第510条第1号)。念のため、そのような事情がないことの確認も必要です。

なお、持分会社には特別清算の制度はありません。

3.清算人の選任/帳簿資料保存についても考慮を

清算人として誰を選任すればよいかというご質問をいただくことがあります。

基本的には、清算人の職務である清算事務(会社法第481条参照)を適切に遂行できる方を検討し、選任することになります。ただし、筆者は、帳簿資料の保存に耐えられる人材かという観点でも検討が必要と考えています。この点をアドバイスしている弁護士や司法書士は正直少ないように思われます。

清算人は、清算結了の登記の時から十年間、帳簿資料を保存する義務があります(会社法第508条第1項)。したがって、清算が完了した後も、清算人の義務は継続します。そのため、この点を踏まえて清算人候補者を決定する必要があるでしょう。

なお、利害関係人の申立てにより、清算人に代わる帳簿資料保存者を選任することも可能です(会社法第508条第2項)。もっとも、裁判所は「清算人の責任において第三者に保存を委託することは可能ですので,単に清算人の自宅等に保存するスペースが無いなどの理由では,保存が困難な場合とは認められません。」という見解をとっていることに留意する必要があります。

参考:裁判所
【会社法】帳簿資料保存者選任申立事件についてのQ&A

上記の裁判所の見解を踏まえると、帳簿資料の保存を、実際に、誰がどのようにして行うかも検討する必要があります。
例えば子会社の解散・清算手続を行う際、親会社の従業員等が清算人となるが、帳簿資料については実態としては親会社の保管庫等のスペースにおいて保存する、というケースも多いように思われます。この場合、清算人と会社との間で、念のため資料保存を委託するための契約を締結しておくべきか等も、必要に応じて検討する必要があるように思われます。

4.弁済制限期間中に支払が想定される債務の確認

(1)弁済制限期間とは

会社が解散した後は、官報に公告を掲載し、知れている債権者に各別の催告をする必要があります(会社法第499条第1項)。そして、債権申出期間として最低二か月間の期間を設定する必要があり、この期間内は原則として債務の弁済をすることができません(会社法第500条第1項)。ただし、例外的に、裁判所の許可を得て、少額の債権を弁済することは認められています(会社法第500条第2項)。

従って、この期間内に弁済期限が到来するような債務は、公告掲載前に弁済をするべきかを検討する必要があります。

なお、少なくとも条文上は、解散前、あるいは解散後公告掲載までの間であれば、特定の債権者への弁済は特に問題なく行うことはできると考えられます。もっとも、会社法が弁済制限期間を規定している趣旨は、債権者の平等を実現するためです。それを踏まえると、解散前に意図的に特定の債権者にのみ弁済を行うことは、抜け駆け的な弁済と解釈される可能性も否定できません。条文上は問題ないとは一応考えられるものの、弁済にあたっては、債務の性質等を個別的に判断したうえで、債権者の平等を害することがないよう配慮は必要でしょう。

(2)自動引き落とし等に注意

実務上、注意したいのは例えば口座自動引き落としによって支払われる手数料等です。弁済制限期間中、意図せずこれらの支払いが行われてしまうと、会社法の規定に反した弁済となってしまいます。意図しない弁済が行われてしまうようなことがないよう、経理担当者等と連携して確認をすることが必要です。