論考・記事

種類株式の登記事項
2025.06.27

種類株式の登記事項(何を登記して、何は登記できないのか)については、まとまった資料が少なく、実務用に参照できるようなものがあまりないように思われるため、本稿では、種類株式の登記事項について整理いたします。

株式会社が登記すべき事項を定めた会社法第911条第3項は「発行する株式の内容(種類株式発行会社にあっては、発行可能種類株式総数及び発行する各種類の株式の内容)」(第7号)を登記すべきと規定しています。

商業登記の取扱としては、登記すべき事項は、会社法「第108条第2項各号に定める事項(会社法第322条第2項の定めを設けた場合にあってはその定め,会社法第108条第3項後段の要綱を定めた場合にあってはその要綱)及び変更年月日」とされています。(平成18年3月31日民商第782号通達『会社法の施行に伴う商業登記事務の取扱いについて』第2 2(3)イ(ウ)(p.15))

表形式で整理すると、次のとおりとなります。

事項登記要否コメント・参照条文等
剰余金の配当会社法第108条第2項
残余財産の分配会社法第108条第2項
株主総会において議決権を行使することができる事項会社法第108条第2項
※議決権の制限がなく法定のデフォルトルール通り(1株=1議決権)の場合は登記はできないとの見解をとる法務局もあるが、登記できている実例もある。
譲渡制限株式に係る事項会社法第108条第2項
取得請求権付株式に係る事項会社法第108条第2項
取得条項付株式に係る事項会社法第108条第2項
全部取得条項付種類株式に係る事項会社法第108条第2項
株主総会、取締役会、清算人会において決議すべき事項のうち,当該決議のほか,当該種類株主総会の決議があることを必要とするもの会社法第108条第2項
当該種類株主総会において取締役又は監査役を選任すること。会社法第108条第2項
会社が会社法第322条第1項各号に掲げる行為をする場合において,当該場合における種類株主総会の決議を要しない旨会社法第322条第2項
※同項では「ある種類の株式の内容として」と規定されているため、この定款の定めも株式の種類の内容と整理される。
※なお第199条第4項等の定款の定めは登記事項ではないため注意を要する(後述)
剰余金の配当について内容の異なる種類の種類株主が配当を受けることができる額等を、種類株式を初めて発行する時までに、株主総会、取締役会又は清算人会の決議によって定める旨の要綱会社法第108条第3項後段の要綱
取得価額等の調整に係る事項「株式の分割、併合または無償割当てによる調整:A種優先株式発行後、株式の分割、併合または無償割当てを行う場合は、A種取得価額は以下の調整式に基づき調整される。・・・」
など
一般的には、登記事項とされている、取得対価の価額の決定方法の一部等に該当することが多いと思われるため登記事項となる。
株式の分割・併合に関する条項

例:「当会社は、株式の分割又は併合を行うときは、全ての種類の株式につき同一割合でこれを行う。」「当会社は、A種優先株式について株式の分割又は併合は行わない。」など
×会社としての取扱についての定めであり株式の内容の定義にも非該当であるため。
株式割当てに関する条項

例:「当会社は、株主に株式無償割当て又は新株予約権の無償割当てを行うときは、普通株主には普通株式又は普通株式を目的とする新株予約権の無償割当てを、A種優先株主にはA種優先株式又はA種優先株式を目的とする新株予約権の無償割当てを、それぞれ同時に同一割合で同一の条件にて行うものとする。」など

例2:「当会社はA種優先株主には、募集株式の割当てを受ける権利又は募集新株予約権の割当てを受ける権利を与えない。」など
×会社としての取扱についての定めであり株式の内容の定義にも非該当であるため。
みなし清算に関する条項

例:「合併により当会社が消滅する場合、株式交付により当会社が株式交付子会社となる場合または株式交換もしくは株式移転により当会社が他の会社の完全子会社となる場合には、A種優先株主またはA種優先登録質権者に対し、普通株主または普通登録質権者に先立ち、A種優先株式1株当たりのA種優先分配額に相当する存続会社または実質的に当会社株式の議決権総数の過半数を取得することになる親会社の株式その他の資産が割当てられるものとする。」など
×会社としての取扱についての定めであり株式の内容の定義にも非該当であるため。
会社法第199条第4項、第200条第4項、第238条第4項、第239条第4項及び第795条第4項について、種類株主総会の決議を要しない旨の定め×会社法第322条第2項が「ある種類の株式の内容として」と規定されているのに対して、これらには同様の文言はない。そのため、「各株式の種類の内容」として認められるのは、会社法第322条第2項の規定に限られるとの整理となる。