論考・記事

会社設立時の代表取締役等住所非表示措置の申出に関する実務上の手引きと論点
2024.11.21

令和6年10月1日から施行された商業登記規則等の一部を改正する省令(令和6年法務省令第28号)によって創設された代表取締役等住所非表示措置につき、設立登記申請と同時に申出をする場合の実務上のポイントと、論点について解説します。

1.登記申請と同時に申し出ること

代表取締役等住所非表示措置の申出は、設立の登記や代表取締役等の就任の登記、代表取締役等の住所移転による変更の登記など、代表取締役等の住所が登記されることとなる登記の申請と同時にする場合に限りすることができるとされています。

このことから、設立時から代表取締役等住所非表示措置を求める場合は、設立登記の際に申出をすることが必要となります。設立登記後に住所非表示措置の申出のみを単独で行うことができません。

2.所定の書面を添付すること

本稿では、設立時からの非表示措置申出を行うことを前提とするため、上場会社以外の株式会社の場合を念頭に解説します。非上場会社において非表示措置申出を行うには、以下の書類の添付が必要とされています。

(1) 株式会社が受取人として記載された書面がその本店の所在場所に宛てて配達証明郵便により送付されたことを証する書面等

(2) 代表取締役等の氏名及び住所が記載されている市町村長等による証明書

(3) 株式会社の実質的支配者の本人特定事項を証する書面

本稿では、実務上の混乱が見られる(1)について検討します。

3.配達証明郵便等の取扱について

「株式会社が受取人として記載された書面がその本店の所在場所に宛てて配達証明郵便により送付されたことを証する書面等」は、具体的には、以下の書面が該当するとされています。(出典:法務省「代表取締役等住所非表示措置について」

・株式会社が受取人として記載された配達証明書(株式会社の商号及び本店所在場所が記載された郵便物受領証についても併せて添付してください。)

なお、配達証明書又は郵便物受領書に記載された株式会社の商号又は本店所在場所が登記記録と合致しない場合は、代表取締役等住所非表示措置を講ずることはできません。

・登記の申請を受任した資格者代理人*2において株式会社の本店所在場所における実在性を確認した書面(PDF Word

*2 登記の申請の代理を業として行うことができる代理人に限られます。

ここで、会社設立時において非表示措置を求める場合、対象の株式会社が未だ設立されていないことから、これらの書類をどう取得するかが問題になります。しかし、この点は、本稿執筆時時点(2024年11月現在)において、通達やパブリックコメントにおいても当局が具体的な解釈指針を示していないことから、実務上の混乱が見られるように思います。この点について以下検討します。

条文に立ち返ると、商業登記規則では以下のように規定されています。

商業登記規則第31条の3 第1項第1号
イ 登記の申請がその代理を業とすることができる代理人(以下この条において「資格者代理人」という。)によつてされた場合において当該資格者代理人が当該株式会社の本店がその所在場所において実在することを確認した結果を記載した書面又は当該株式会社が受取人として記載された書面がその本店の所在場所に宛てて配達証明郵便若しくは信書便の役務のうち配達証明郵便に準ずるものとして法務大臣の定めるものにより送付されたことを証する書面

条文上は、株式会社自体の実在性ではなく、本店の所在場所が実在することの確認を求めているように読めます。もしそうであれば、設立前であるために対象の株式会社が登記前に実在していないことは問題ではなく、本店の所在場所の実在性を確認できていることを示す書面があれば足りそうです。もっとも、2024年11月現在、この点についての解釈が示された通達がないため、今後の取扱についての具体的な発信が待たれるところです。

最寄りの郵便局の職員に確認したところ、郵便局の実務上は、配達証明郵便に仮に設立準備中の会社名が記載してあったとしても、郵便物を受け取った者において確かに自身宛に届いた(あるいは自身に関係する)郵便物であると認めたことが確認できれば、配達をしているとのことでした。そして、法務局では、株式会社の設立前であっても、当該株式会社が受取人として記載された配達証明書の添付が事実上あれば、本件申出の添付書面として取り扱っていただけるとの取扱がなされている模様です。

そこで、配達証明郵便を送付する際、配達証明郵便の宛先の住所に、「●●株式会社内、●●気付、●●様方」などと加えて、送付の確実性を増す方法が考えられるように思います。なお、この方法が使用できるのは、新設する会社の本店の所在場所が、発起人や役員の住所と同一である場合等に限られますが、それでも有効かとは思います。

参考までに、配達証明郵便の発送時に、郵便局から交付される受領証の様式を示します。この受領証も、非表示措置申出の際の添付書類となります。お届け先の住所・名称が切れずに記載された形で発行してもらうよう注意が必要です。

配達証明書の様式は次のとおりです。住所に「●●株式会社内」を入れて発送した場合、「受取人の氏名」欄に「●●株式会社内」が入った形となりました。しかし、登記手続上は特に問題なく受理されました(東京法務局本局)。この配達証明書も、非表示措置申出の際の必要添付書類となります。配達証明書には送付先の住所は記載されていないため、前述のとおり、発送時に郵便局から発行される受領書もあわせて添付が必要となります。

4.参考となる資料等

「商業登記規則等の一部を改正する省令案」に関する意見募集の結果について

https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/download?seqNo=0000273035

法務省:代表取締役等住所非表示措置について

https://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00210.html

5.おわりに

本文中でも触れたとおり、設立前の会社に宛てて配達証明郵便を出すことを求める取扱については違和感があり、今後通達による運用の明確化や、実務運用の改善が待たれるように思います。本文中で述べた「●●株式会社内」を加えて発送する方法は、形式的に申出の必要書面を入手することはできるかもしれませんが、株式会社の本店の実在性を確認するという趣旨に沿っているかどうか疑問です。しかし、現状、設立時に配達証明郵便を用いた確認方法としてはこのような方法を採らざるをえず、より制度の趣旨に沿った扱いを確立していただくことが望まれるように思われます。