法律事務所(弁護士)が在留資格やその変更許可申請取次を行政書士にアウトソースする場合、対クライアントとの関係で注意すべき点を本稿で解説します。
1.本人申請との関係
在留資格認定の申請を行える者については、出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」といいます。)上、制限が設けられています(入管法7条の2第2項、入管法施行規則6条の2第3項、別表第四参照)。具体的には、入管法上、申請等の代理権を認められている者は、原則として本人又は本人の所属機関の職員や法定代理人等に限られています。契約締結などの法律行為、登記手続や各種許認可の申請については、任意代理人たる弁護士であれば通常は問題なく代理人となることができることからすると、この点は入管法の特徴的な点として認識しておく必要があると考えられます。すなわち、依頼者との間で適式に委任を受けた代理人弁護士であっても、入管法上は、本人に代わって在留資格許可申請をする権限がないことが殆どなのです。
弁護士は本人の代理人であるのだから、適式に委任を受けていれば、申請や意思表示等を本人に代わって行う権利は当然あるわけで、本人をまったく関与させずに手続きを完結できる――そのように考えていた弁護士の方が過去にいらっしゃいましたが、こと入管業務に関しては民法上の代理の一般原則をベースにした論理が通じない場合があります。これは後述の本人確認や意思確認の関係で問題になりえます。
2.代理と申請取次との関係
入管に届け出を行った、いわゆる申請取次行政書士・申請取次弁護士については、本人である外国人に代わって申請書や資料の提出を行うことができるとされています(入管法施行規則6条の2第4項第2号)。しかし、これはあくまで申請の取り次ぎ(要するに書類のデリバリー)をできる権限が付されているのみであって、いわゆる法的な意味での「代理」とは明確に区別されています。
3.申請取次を所外行政書士にアウトソースする際に気を付けたいこと
弁護士が法律事務所の業務としてクライアントから在留資格申請を受任し、それを申請取次行政書士にアウトソースする場合の注意点について解説します。
(1)本人の関与は不可欠
対クライアントとの関係で、あくまで法律事務所のサービスとして在留資格申請の代理手続業務を提供する一方、所外の行政書士へのアウトソーシングは法律事務所の内部的なものとして処理し、クライアントには見せないという形を希望される弁護士の方が過去にいらっしゃいましたが、下記の理由からこのような形でのサービス提供は難しい場合が殆どかと思われます。もし、このような形で受任をしている行政書士がいたとしたら、遵守すべきルールを逸脱している可能性が高く、依頼先として本当に適切かどうかよく検討いただくことが必要です。
(2)申請取次行政書士の義務との関係
申請取次行政書士は、申請取次を受任するにあたって、所属行政書士会に関して以下の事項を誓約しており、これに反する取扱は難しいということを認識いただく必要があります。
1.申請人又は入管法上の代理人(以下、申請人等という)から直接依頼を受けることなく、第三者を介して以来を受けた申請を取次がないこと。
→ 弁護士は依頼者を行政書士に対して紹介するという関係で関与いただき、外国人本人と行政書士の間で直接の依頼関係を構築していただく必要があります。本人→弁護士→行政書士のような上下の関係(いわば元請・下請関係)を前提にしての申請取次業務の遂行は問題が生じる場合があります。
2.申請人等に会って直接話をきくこと。
→ 行政書士が弁護士からの情報聴取のみで、外国人本人に一切の面会をしない形で手続を完結させることは不可能となります。
(3)法令の趣旨との関係
上記1.及び2.で述べたとおり、任意代理人である弁護士は、入管法上の代理人として認められていないことが殆どです。その趣旨からすると、行政書士は、代理人弁護士のみならず、本人に対して、申請書の内容や申請意思の確認を行う必要が生じます。
4.まとめ
以上述べたとおり、入管法上の申請に関しては他の許認可とは異なる考え方や特殊性があります。弁護士の皆様におかれましては、この特徴をよくご理解いただき、行政書士による円滑な申請取次業務にご協力をいただきたくお願いいたします。