工場等、特に古い建物について登記手続をする際に、このような状況が発生する場合が多いように思われます。地域や法務局によって考え方が異なる場合があるほか、一般的なブログ記事では「法務局に相談するのがよいでしょう。」といった記載が述べられていることがあっても、基本的な考え方について整理・解説した記事が少ないようですので、本稿で整理いたします。
1.基本的にはケースバイケース
床面積/地積につき、課税明細書と登記上の記録に齟齬がある場合の対応方法ですが、これについては統一的な見解や指針が示されているわけではなく、原則としてケースバイケースで判断することになるようです。(2024.8:某法務局の不動産登記部門の担当者談)
2.建物の場合は、個別の建物(主たる建物/附属建物等)毎に検討する
建物の場合は、一つの登記記録に、主たる建物のほか、附属建物の表示がある場合など、複数の建物が記録されている場合があります。この場合、建物の登記に記載されている建物(主たる建物/附属建物)全体の床面積を合算して判断するのではなく、主たる建物/附属建物など、個別の建物ごとに課税明細書に記載されている建物との対応関係を確認する必要があります。
具体的は、床面積/地積のほか、建築年や増減築の記録、建物の種別等を頼りに、課税明細書上の各建物が登記上のどの建物に対応しているかを確認し、課税明細書上の面積と登記上の面積の齟齬の状況を確認することになります。
3.課税明細書上の面積 ≒ 登記記録上の面積となっている場合
税務上の床面積/地積の算出方法と、登記上の床面積/地積の算出方法は必ずしも一致するものではないため、両者が微差であれば、面積の齟齬は特段問題にならず、課税明細書上の評価額をそのまま採用できるケースが多いようです。
4.課税明細書上の面積 > 登記記録上の面積となっている場合
この場合は、原則として課税明細書上の評価額を採用することで問題ないケースが多いと思われます。
5.増減築や地積変更等の変更が長期にわたって行われていないと認められる場合
課税明細書と登記記録上の面積に齟齬がある場合でも、登記記録上、増減築や地積変更等、面積に影響を及ぼす変更が長期にわたって行われていないと認められる場合は、最新年度の課税明細書中に記載されている評価額に依拠して登録免許税を算定することで問題ないケースが多いと思われます。
6.【土地】課税明細書上の地積につき、登記記録上で地積変更等が反映されていない場合
登記上の記録と照らし合わせてみるに、明らかに変更前の地積に基づいて評価額が計算されていると認められるような場合がこれに該当します。この場合は、課税明細書上の面積が現況と異なる可能性があり、登記記録上の面積をベースに再計算が必要となる場合があります。具体的な計算方法は、個別のケースに応じて都度検討が必要となりますが、法務局より次のような方法で算出を求められた例があります。
<計算方法の一例>
※国土調査による面積増加が課税明細書上の記録で反映されていない場合の例
(1)課税明細書をベースに、1㎡あたりの評価額を算出する。
(評価額÷課税明細書上の面積)
(2)上記(1)の金額に、登記記録上の面積を積算する。
(上記(1)の額×登記記録上の面積)
(3)上記(2)の金額を課税標準金額として、登録免許税を計算する。
7.【建物】課税明細書上の床面積につき、登記記録上で増減築等による変更が反映されていない場合
上記6.とほぼ同様になりますが、建物については、その種別に応じ経年劣化等に伴う補正を行う必要があります。
<計算方法の一例>
※増築による変更が課税明細書上の記録で反映されていない場合の例
(1)課税明細書をベースに、1㎡あたりの評価額を算出する。
(評価額÷課税明細書上の面積=(A))
(2)上記(1)の金額と、課税明細書と登記記録上の面積の差を積算する。
((A)×(登記記録上の面積-課税明細書上の面積)=(B))
(3)上記(2)の金額に補正を加える。
((B)×新築建物課税標準価格認定基準額×経年劣化補正率=(C))
(※新築建物課税標準価格認定基準額および経年劣化補正率は、管轄法務局のWEBサイト上で公開されていれば確認が可能です。)
(4)課税明細書上の評価額に、上記(C)を加える。
(課税明細書上の評価額 + (C) =登記上の評価額)
8.登記所との解釈相違が発生した場合(参考)
課税標準金額の計算方法に誤りがあった場合でも直ちに登記申請が却下されるわけではなく、登記官は、申請人に対し、登記官が認定した金額を通知する義務があるとされています。
不動産登記規則
(課税標準の認定)
第百九十条
登記官は、申請情報の内容とされた課税標準の金額を相当でないと認めるときは、申請人に対し、登記官が認定した課税標準の金額を適宜の方法により告知しなければならない。
2登記官は、前項の場合において、申請が書面申請であるときは、申請書(申請情報の全部を記録した磁気ディスクにあっては、適宜の用紙)に登記官が認定した課税標準の金額を記載しなければならない。