論考・記事

定款の員数を超えて役員を選任してしまった場合の対応
2023.11.07

株式会社の定款においては、通常、「取締役は●名以内(以上)とする」といった定めが置かれることが一般的です。この定めに違反して、定員を超える役員を選任してしまった場合の対応方法について検討しましたので、解説します。

1.選任の効力は取り消されるまで有効

会社法上は、定款違反の決議であっても、それは取消事由にすぎないとされています(会社法831条1項2号参照)。言い換えれば、定款に違反してなされた決議は、取消されるまでは、一応有効に成立しているということです。

ここでいう「取消事由にすぎない」というのは、株主や取締役、監査役等が、株主総会決議日から三か月以内に、裁判所に対して決議の取消しを請求しない限りは、決議の効力が直ちに無効になるものではないという趣旨です。

定款違反の決議は、株主総会の決議内容に瑕疵がある点で、重大な瑕疵があるようにも見えます。しかし、定款は、あくまで会社内部の自治ルールという位置づけの規程です。そのため、法令違反とは異なり、定款違反は会社内部のルールの違反にすぎません。

株主総会決議によって取締役が選任された場合、選任のときから、取締役と会社との間、場合によっては取締役と会社外部の関係者との間に、新たな法律関係が構築されている場合もあります。それにもかかわらず、会社の自治ルール違反という軽微な瑕疵によって決議の効力を否定されてしまうと、会社外の人間が思わぬ不利益を被る可能性もあります。そこで、会社法は、定款違反の決議は決議取消事由にすぎないと規定しているのです。

2.実務上の対応

上述のとおり、定款違反の決議を取り消す必要がある場合は、決議日から三か月以内に訴えを起こす必要があります。

逆にいえば、決議日から三か月以内に、取消の訴えが起こされなければ、決議は有効のまま取扱って差し支えないと考えられます。そのため、例えば1年前の決議が定款違反だったことが事後的に判明しても、その決議は有効のまま取扱われることになります。

もっとも、決議直後に定款違反だったことに会社側が気づいた場合、任意的に、再度臨時株主総会を開催し、当該定款違反の決議を撤回するという対応も考えられるところです。但し、既に取締役就任の登記をしてしまった場合や、新取締役が代表者となって契約を締結してしまった場合には、単純に決議の撤回をすると、思わぬ不利益を被る関係者が出る可能性もあります。撤回決議の可否については個別具体的な事例ごとに、慎重に検討するべきであるとも思われます。