論考・記事

株主提案による株主総会の決議の省略(いわゆる書面決議)に関する論点と考察
2023.03.13

取締役又は株主が株主総会の目的である事項について提案をした場合、当該提案につき議決権を行使することができる株主の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該提案を可決する旨の株主総会の決議があったものとみなされます(会社法第319条第1項)。

本稿では、特に非公開会社に関して実務上問題となる点につき考察します。なお、本考察中で述べる意見についてはあくまで私見であることをお断りしておきます。

1.なぜ株主提案なのか

一般的には、株主総会の決議事項は取締役により提案されることがほとんどですが、中には株主から提案する形式を採用することもあります。

実務上、株主提案が選択される理由としては、次のようなものがあります。

①手続や必要書類を減らすため

取締役提案による株主総会書面決議を行う場合において、取締役が取締役会の決議を経ないで提案した場合には、決議取消事由となる(会社法第298条第4項、第831条第1項第1号)との見解があります(江頭憲治郎著『株式会社法』第7版(商事法務) p.363等)。

そのため、取締役提案の場合は、株主総会書面決議に先立って、取締役会決議を経る必要があり、また取締役会議事録等の必要書類も必要となります。

これに対し株主提案の場合は、必然的に、提案事項を取締役会で決議する必要はなくなるため、結果的に手続が簡便になり、必要書類を減らすことができます。

②実体にあわせるため

株主総会の決議が実態として株主の意向や株主からの提案に基づいて行われるものと評価できる場合などは、その実態に沿って株主提案で書面決議を行うことがあります。例えば取締役が名目上就任しているようなSPC等でそのような取扱をする例が見られます。

2.株主提案の可否を検討すべき議案

上記1.①及び②に記載した理由から、取締役提案で行っていた手続きを、漫然と株主提案に置き換えて決議をする取扱も実務上散見されますが、議案によっては、株主提案の形態が適切でないと考えられるものもあり、その採否を慎重に検討するべきであると考えます。例を2つ挙げて解説します。

(1)決算承認(定時株主総会)に関する議案

株式会社は、各事業年度に係る計算書類や事業報告等を作成し、定時株主総会において承認を受ける必要があります(会社法第435条、第438条第2項)。定時株主総会も株主総会ですので、これを書面決議で行うこと自体は可能です。

但し、会社法上は、計算書類や事業報告等は(株主ではなく)取締役が作成し、監査役や会計監査人の監査を受けることを想定して規律されています。定時株主総会との関係についていえば、取締役は、計算書類及び事業報告を定時株主総会に提出し、又は提供する義務があります(会社法第438条第1項)。

したがって、取締役による当該提出又は提供行為がないまま、すなわち取締役を全く関与させず、株主のみで、計算書類承認に係る書面決議を行うことは、会社法第438条第1項の関係から事実上難しいものと考えられます。また、株式会社における所有と経営の分離の原則から、計算書類等を株主が直接作成するということは、通常想定されていませんので、実態にも反し、このような取扱は事実上不可能であると思われます。

それにもかかわらず、実務上、定時株主総会の議事録が株主提案の書面決議の体裁で作成されたものを見かけることがあります。どのようなロジックで、そのような方策が採用可能なのか、慎重に検討することが必要であるように思われます。

(2)会計監査人選任に関する議案

監査役設置会社においては、株主総会に提出する会計監査人の選解任等に関する議案の内容は、監査役が決定するものとされています(会社法第344条第1項)。

この関係で、会計監査人の選任や解任を、株主提案による株主総会書面決議で行えるかどうかは、議論があるように思われます。

会社法第344条第1項の規定の趣旨は、取締役に会計監査人候補者の決定権を与えると、取締役と会計監査人が通謀するおそれがあることから、監査役に決定権を与えたものと考えられています。取締役と会計監査人が通謀することで、損害を被る可能性が生じるのは株主であることから、株主の全員の同意で会計監査人を選任するのであれば、会社法の趣旨に反することはないと考えられ、これを可能と考える見解もあります。

他方で、会社法第344条第1項の規定は、監査役に決定権を与えたものですから、これを株主全員の同意により監査役から無条件にはく奪できるかは議論があるように思われます。

当該規定は平成26年改正によって、監査役の同意権限が議案決定権に格上げされたという経緯があります。つまり監査役の権限強化が望まれていることを踏まえて検討する必要があります。改正以前には問題にならなかった論点であり、そういった背景もあってか、現状、この点に関しての議論が十分になされている状況ではないように思われます。

ところが、改正後も、漫然と、このような論点の検討をすることなく、株主提案による株主総会書面決議の形式で会計監査人選任に係る書類を作成しているケースも散見されます。特に、法改正前の様式を単に改正後も流用しているケースが目立ちます。慎重な検討が必要であるように思われます。

3.まとめ

所有と経営の分離を原則とする株式会社においては、株主提案は、ある種非常的なものか、イレギュラーな手続方法であるともいえ、万能ではないという認識のもと、実態にあわせた運用をしていくことが必要なように思われます。