会社の登記事項に変更が生じた場合は、原則として、変更から二週間以内に変更登記手続きをする必要があります(会社法第915条)。そしてこの変更を怠った場合、役員らは、最大で100万円の過料に処せられます(会社法第976条第1号)。
本稿では、筆者の経験上、手続き漏れが比較的多いと感じる登記事項をいくつか例示して解説します。やはり多いのは役員関連かと存じます。問題なく登記手続を行っている会社様も多いかと思いますが、今一度ご確認いただく際の参考になれば幸いです。
1.代表取締役等の住所変更
代表取締役の住所は登記事項となっているため、例えば代表取締役が転居をした場合、転居日から二週間以内に変更登記が必要となります(会社法第911条第3項第14号)。
代表取締役が転居をしたという事実は、プライベートな事情による場合が多く、代表取締役自身から法務担当者等に情報提供がなされない限り、把握するのが困難なことが多くあります。
代表取締役に就任された方は、住所変更に際しては登記手続が必要ということをご認識いただき、また法務担当者としても、会社の登記事項について代表取締役と認識共有しておくとともに、難しいかもしれませんが定期的に代表取締役の住所変更がないかを可能な範囲で確認する機会を設けることをお勧めいたします。タイムリーな把握が難しいとしても、例えば役員の任期満了に伴う改選があれば、その際に確認をしておくということが考えられます。
2.会計監査人の重任(再任)
監査法人等が会計監査人として就任している会社の場合に発生しやすい事項です。
会計監査人の任期は、選任後一年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとされています(会社法第338条)。つまり、毎年度の定時株主総会ごとに任期が満了するということになります。
一方、会社法は、「会計監査人は、前項の定時株主総会において別段の決議がされなかったときは、当該定時株主総会において再任されたものとみなす。」とも規定しています。つまり、定時株主総会で決議をしなくても自動的に再任されるということです。
このことから、定時株主総会の議事録には会計監査人の再任の旨が記載されていないことが多く、再任が起こっていることを把握しづらいために、その登記を失念してしまうケースも多くあります。これは実務家たる司法書士も失念しやすい事柄の一つであるため、特に注意が必要です。
3.役員の再選
株式会社の取締役の任期は通常約2年、監査役の任期は約4年(10年等になっている場合もあります。定款で確認可能です)とされていますが、定時株主総会の開催をしていない会社で、任期が満了しているにもかかわらず再選の手続きが行われていない場合があります。
役員が既に全員任期満了状態で、再選の手続きが行わなかった場合(すなわち、任期が残っている役員がいなくなってしまった場合)でも、新たに選任された役員が就任するまで、退任した役員はなお役員としての権利義務を有しています(会社法第346条第1項)。従って、会社の事業活動との関係で直ちに不都合が生じることはありません。
他方で、本稿冒頭に記載したとおり、登記を怠った事実を消すことはできず、過料の制裁を受ける可能性がありますので、十分に留意する必要があります。
4.まとめ
法定の期間内に登記手続が行われていないことを発見した場合、速やかに登記手続をする対応が勧められます。また、長期間手続きを怠っていた場合、事実関係の確認や申請すべき登記の確定に専門的な知見を要する場合も多く、必要に応じて司法書士等の専門家と相談のうえ、対応いただくことをお勧めいたします。